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 新学期が始まるまでの数日間、ナサニエル、ヴァージニア・メトカーフは言葉通り、少年少女の回復に全力を注いだ。そして、新学期が始まるまで1週間をきっていたのだから、その間で全治するはずもなく、学期が始まっても彼らの行いは続くだろう。
 一方クナはレンス・デクスターとロニー・フレハートの宿題の手伝いに追われていた。ロニーは残りの日数で十分終わらせることができたので、3人で勉強することを楽しみながら進めることができた。そう、問題はデクスター家の次女、レンス、レンス・デクスターである。
「ほ、本当に何にもやってなかったんだね。話をしたときは半分くらいやってあるのかと……2学期前にもう一回会うなんて」
 そういって、ロニーは口を濁した。
「クゥちゃぁあん」
 大泣きはしなかったが、半べそに近く、クナに抱きついて彼女の肩を揺さぶる。
「レンス、今は――」
「レンって呼ぶのっ!!」
 ロニー、レンスの二人はクナのしゃべり方がヴァージニア譲りであるところをどうにかできないか――別に嫌ではない――と考えた後、せめて自分たちを愛称で呼ぶよう――自分で自分の愛称をつけることはかなり恥ずかしかった――努めた。
 しかし、ここでのその発言は自分に降りかかる問題と一片の関わっていなかった。
「レン、今はそうやっているの時間も惜しいから、早く進めること」
 無理矢理引っぺがし、机の彼女の宿題を指す。
「手伝ってくれないのぉ?」
「手伝うという言葉はこの場合正しくない」
「え〜〜!?」
「私が手を使ってすることはできるわけないでしょう? 助言はできる限りしますから。それでははじめましょう」
 友達であっても、いや、友達であるからそれを手伝おうとはしなかった。しぶしぶレンスは宿題に取り掛かる。
「ファイト!」
「それは助言?」
 ロニーの言葉にクナが素直に質問し、ロニーはうなずくと、クナは両手にこぶしを作り、
「ふぁ、ふぁいと!」
 と、彼女に呼びかけた。
「それは助言じゃなぁい!!」
 デクスター家の長女は隣の部屋でお菓子を一口ほおばりながら、今話題の小説『嫌いという恋愛感情<<下巻>>』の368頁目を読み始めた。


 クナは女の子であるために、ヴァージニアの性格を良く受け継いでいる。
 それは、言葉以外の点でお発揮していて、今日二人は初めてそのことを知った。
「じゃあ、私はそろそろ帰るわ。レンのお母様、夕食とてもおいしかったです」
「本当に、9歳かしら? さすがヴァージニアさんの娘ねぇ。いえいえ、また来てくださいね?」
「はい」
「え〜〜。泊まっていけばいいのに。ねぇママ?」
「うちは全然かまわないわ。大歓迎よ」
「ロンも一緒にさ」
 2人は親に連絡を取って承諾を得た後、レンスはクナが彼女の進度を見極め、作成した計画書『楽しい宿題完了計画(題字:ロニー)』に基づいて進めていった。始めは、
「これ……本当にやるの?」
 と、冷や汗を流していたが、
「本当にやるの」
 と、クナに言われればレンスは進める以外に方法がなかったからだ。
“宿題は自由課題を抜いて、算法、社法、国語、理法の4科目。進度はすべて2割に満たず。時間は120時間だけが有効な時間である。――省略――よって、この年齢では少々負担が強いられるが、宿題を終わらせるためには睡眠時間を3時間にし行えば、提出する時間8時間前には終わらせることができる計算である。そうすれば、残り8時間は十分睡眠時間に当てることができる。”
 そして、20時45分になった時。
「じゃあ、私はそろそろ寝ます」
「「え!?」」
 これも時代の移り変わりなのか、最近の子供は夜の9時に寝ることはなく12時までは夕に起きているのが普通であったので2人は驚いた。
「もう寝るのクゥちゃん?」
「うん」
 せっせとレンスの母親からもらったパジャマに着替え、ベッド――体格上3人はひとつのベッドに寝ることが可能だった――にはいる。
「じゃ、じゃあ、私の宿題は?」
「私の助言の必要ないものをやるのが良いかもしれません」
 枕をポムポムとたたいて調節する。時間は20時50分だ。
「寝る前にお話したかったのに」
 ロニーは残念そうに国語の読書感想文の原稿用紙をぺらぺらさせた。
「本当に寝ちゃうの?」
「うん。私は学校に通い始める前から必ず21時には寝ているの」
「寝るのもきっちりしてるんだ」
 そう、これもヴァージニア・メトカーフ譲りのもので、必ず定刻に寝るよう――もう自然とその時間に眠気がやってくる――に習慣づけられていた。
 20時55分に彼女が今日最後の言葉を残した。
「レンスは2時になったら寝てください」
 そして、クナは21時丁度に睡眠に入った。
ロニーは12時前に宿題を終わらせ睡眠につき、レンスも眼をこすりながら頑張り2時まで一人になりながらも一生懸命読書感想文を書いた。レンスは親と姉の影響があってか読書は好きであり、そのため表現力は2人よりもずっとすばらしかった。そして、2時までの納得がいくものができ、ようやくベッドに入った。
ベッドに3人が寝ると夏も加わってか、少し寝苦しかった。




 クナがレンスに寝る時間を提示したわけは、自分が起きる時間と同時に彼女を起こせばレンスは3時間睡眠を達成したことになるからである。レンスは不満たっぷりで起き上がったが、クナはグイッと彼女の腕を取って無理矢理顔を洗い、レンスの目を覚まさせた。
「こうして、私が起こせばきっちり3時間睡眠ができる」と、クナは自慢げに話したが、彼女にとってはちょっとしたいじめにしか (とら) えることができなかった。
 それからは、ほぼクナが作成した予定表どおりに進んでいた。レンスは残り60時間を過ぎたあたりから、苦痛以外の何者でもなく、一度母親に泣きついたが、
「レンス」
「ママ」
 やさしく迎えてくれるかと思って半べその中顔が緩む。
「今日まで見ていて、私が間違っていたことがわかったわ」
「ママ」
 半べそも段々となくなってきた。
「どうして、今までクナちゃんに頼まなかったのかしら?」
「ふえ?」
 今の発言がどういうものかすぐにはわからず変な声を上げる。
「そうすれば、過去4回の夏、全部ママが手伝わなくてもできたじゃない」
 レンスの母は至って明るかった。
「良かったわね。今年は全部一人でできそうで」
 にまりと笑いかけられて、レンスは気づいた。
「いい友達を持ってよかったわね、レン。あ、クナちゃん、レンの宿題は当日までにできそう?」
「少し、遅れが出ていますが、おそらく提出の7時間前には終わりそうです」
「ごめんなさいね? 残りの日をうちに泊めちゃって」
「いいえ。レンのおじ様とには工作や美術を教えてもらっていますから」
 自分の母は悪魔と。
「そう? あの人、作ることに目が無いから」
「紙であんなことできるのはすごいです」
 レンスの父親は趣味で紙を使っていろいろなものを作っている。それを教えてもらっているのだ。
「私は美術がよくないので……」
「そういう苦手なものがあったほうがもてるわよ? さ、レン、クナちゃんにたっぷり絞られてきなさい?」
 また、クナに見えないようレンスと正面を向いて、いじめるようにレンスに笑いかける。
「レン、行きましょう。これ以上時間を遅らせてしまうと、最後の残った時間を睡眠に費やせなくなってしまいます。」
 そういって、彼女は腕をつかまれる。
「ママの悪魔ぁ!!」
 何とでもおっしゃいというしぐさをとり、かごの中に入っていた洗濯物を干しに表に出て行った。
 たしかに、この場合、特にレンスの視点で見れば親は悪魔にしか見えないが、親から言わせてみれば、娘にはとっても良い薬であった。




 結果的にレンス・デクスターは、
「もうあと5ふぅん」
 間に合っていた。
 ミスト・カランはいつも、身近の人によく言われるは顔に似合わず子供好きであることだ。そういう理由から、始業式は大抵気分がよかった。その逆に終了式は大変気分がすぐれないのは今回は省く。
 そう、いつもミストは今日という日を気分よく迎えているのに、今回ばかりは不思議な念に駆られていた。
「……」
 始業式が始まる前に一度教室に集まり移動するのだが、久しぶりのみんなのために用意しておいた「久しぶり、みんな」という言葉を言い逃してしまった。
そのまま始業式への教室移動を促し、無事終了した今、また、教室へ戻ってきている。彼が、不思議と思っているのは、別に全員が宿題を持ってきているということではなく、
「うぅ……」
 もう一度、正面の教壇の上においてある全員分の宿題を見た後、教室全員を見渡した。別に、宿題を昨日一生懸命取り組み終わらせたために眠い人がいることはいくらか、承知していたが、正直、
「う、ん……」
 クナが額を机にぶつけないように肘で一生懸命支えているのを見るのを疑問に思わない先生、生徒――レンス、ロニーを除いて――はいなかった。
「はい。今年の生徒は宿題を全員忘れなかったようだね」
 クナの席は真ん中一番前の教壇の真正面で、頭を上下に振っているのは後ろからよくわかったし、教壇からは今にも寝てしまいそうな顔がはっきり見えた。生徒たちは理由を知らなかったが、教室で初めてクナを見たとき一目で眠そうだということに気づいた。
 そして、ミストはさすがに心配になって正直に聞くことにした。
「クナちゃん、すっごく、ね……気分が悪そうだけど大丈夫かい?」
「うぅ、お願いもう少しねかせてぇ」
 後ろのほうでは少女が腕を枕にして、寝言をはいている。
 クナはかくんと、額が机にぶつかりそうになったのを起こし、
「はい。大丈夫です。続けてください」
「もし、どうしても気分がすぐれないようでしたら言ってください」
「来年からちゃんとやるよう」
 なにか必死に誰かに訴えているような寝言だ。
「わ、わかりました」
 それから、クナが 何時(いつ) たんこぶを作るかひやひやしたが、そういう事態は起こらず、今日は始業式ということもあり、すぐに下校時間がやってきた。
「そういうことね」
理由を聞けば、すぐに納得できることだった。その内容は、ロニー・フレハートから聞いたものだ。
クナがレンスのために作成した計画書の計画は最後に思い切り狂ってしまった。その狂いは理法が原因だった。算法もスムーズとは行かなかったが何とか終わり、最後の理法の宿題に取り掛かろうとしたときだった。
 理法の宿題は、朝に花を咲かせ、昼前にはしぼんでしまう花、モントの成長を日記につけることである。もちろんこれは母親に厳しくいわれ、しぶしぶ日記をつけていた。ところが、花が枯れたところで日記をやめてしまったのが原因だったらしい。この時点で1週間ほど学校が始まるまで時間があった。
『日記は種を植えてから、種ができるまでが成長日記』というのが理法の本来の宿題である。
この宿題は学校からもらった1粒の種で栽培をするのだが、レンスの場合種をなくしてしまったらしい。モントの種は家に何かと保存しているものが多く、彼女はその自分の家にあるモントの種を植えたのだ。
10粒ほど。
 種ができるまでが成長日記になるので当然、できた種を数え終わり、その数を記入して日記は終了する。クナは1粒で大体150程粒できるのは図鑑で読んで知っていたので、植えた数を聞いたとき容易に総数が頭に浮かんだが――事実、クナとロニーは数え終わっていた――実際、おおよそ1500粒を目の当たりにすると、少し冷や汗が出た。学校の登校時間まで残り6時間を切っていた――ロニーがみるに見かねてクナを起こした――のだから。数を数えることは、いつもの体の状態なら3時間もかからずに終わるのだが、1人は極度の眠気、2人は寝不足であるため、速さは遅さを極め、登校時間45分前に終わった。
クナの計画、7時間15分オーヴァー。
 これがクナが目をこすっている理由だった。
「ロニーちゃんは大丈夫なのかい?」
 話を聞き終わった後、やれやれといった表情でたずねる。
「君も眠いでしょう」
「ふぁい。眠いです。だから、早く帰って寝まぁす。クゥちゃあん、レンちゃあん、帰ろう?」
 そういうと、2人はよっているわけではないのだが千鳥足でふらふらロニーに追いつく。
「それじゃ、先生さようなら」
「バイバイ先生」
「ミスト先生さようなら」
 と、聞こえるか聞こえないくらいの声でもう一度、挨拶し、教室を出て行った。
「さ、さようなら。みんなぐっすり寝なさいね」
 本当に寝ろよ? そう、ミスト・カランは思わずにはいられなかった。




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 こんにちは。
 今回は、夏休みの終わりまでです。ここでの重要なことは特にありません。たらたら長くなってしまい、まぁ、日常がこんな感じで進んでいることを知ってもらいたいからです。私はよく読む小説上、日常描写が多く出ています。つまりは、日常描写がなければ急展開のときに対応ができないからと考えるからなんですね。平和があるから急展開のときがいやに激しく見えたりすることをもしかしたら利用しているかもしれません。
 さて、次はいろいろ書きたいことがありすぎてなかなか煮詰めることができません。ですが、なるたけ頑張って行きたいと思います。
 それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。

 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説
最近難しい単語が出ていないような気がします。
頭が柔らかくなってきたのでしょうか?

 

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