「ごめん。そろそろ帰るわ」
ナサニエルは眼鏡をかけて本を読みふけり、ガトーレはソファにすわり腕を組み、少女たち三人が食器を洗い終わった後、レンスが言ってロニーも頷く。
「もう遅いしね。かえるよ」
「うん」
「あの子たち、どこの子なんだろう」
彼女たちが手を拭いて荷物をもってナサニエルに挨拶を済ませると玄関へ向かい、二階にいるヴァージニアに聞こえるように大きな声で挨拶を済ませた。
ガトーレはどうするのだろうかと考えがよぎったが、
「おばさんは二階だな?」
と、いって二階にあがっていく。
「あいつめ、私には挨拶なしか」
ナサニエルの声は居間からで、クナも見送りのため玄関へいるので誰にも聞こえなかった。
「ガトーレっておばさんには素直だよねぇ」
そうレンスが言っていても玄関でガトーレを待っている3人はその理由が分からなくもなかった。
「でも、あの子達、本当に病院行かなくていいのかなぁ?」
「う〜ん。でも、クナちゃんのおばさんとおじさんが言うくらいだし、大丈夫じゃないかなぁ」
3人は帰り道、1人を除いて今日の音楽会の後の出来事について話し、二人の少年少女たちについて考えていた。
「どうして、あんななってたんだろうね」
「わかんない。でも、多分大丈夫だよ」
その理由は聞かずとも十分わかっていた。
「あの人たちと一緒なら悪いことが起こるはずないもの」
「だよねぇ」
あの家族、ナサニエル家なら大丈夫という心持は、彼女たちに限らず、この町に住んでいる人たちほとんどに及んでいることは言わずもがなだった。
クナのときも――この事に関してはガトーレ・ゴールコートよりも後に知ったことで少し悔しかったが――最後は良い方向へ向かったのだから。
「あ、じゃあ私こっちだから」
レンス・デクスターが手のひらをかざる。
「うん。今度は2学期かなぁ?」
そ、そだね、と少しあいまいにうなずいて、
「また2学期に」
お互い、手を振って別れた。
それからしばらく、ロニー・フレハートとガトーレ・ゴールコートの二人は一緒に歩いていた。ふいに、
「大丈夫なのは、周りだけかもな」
「うん?」
ガトーレが口を開いた。
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ。あいつらは、おそらく苦労する」
「ちょっと、わからないかも」
ロニーは左拳でコツンと自分の頭と軽くたたいて、舌を見せた。今のところレンスだけなのだ、敵意をむき出し似ているのは。ロニーもまだ違和感があるものの、クナを見習って、少しずつ彼への感情を変えていった。
「おそらく、あいつら――」
ガトーレは自分の野生の感から少年たちのなくしたものを言う。それを聞いて彼女は息を止めるが、少し考えて、
「それでも、大丈夫だよ」
と、答えるのだった。
「たとえ苦労したとしても、ぜったいあの子達は幸せになるよ」
少年はベッド中でまどろみながら、当時の状況を
反芻
していた。
快楽殺人。
本当に楽しいからという意味だけで自分の親はこの世から去らなければならなかったのか。そのようなことは絶対に思いたくはなかった。しかし、どんなに考えても結果は、返ってはこない人が2人いるということだ。自分の親たちは決してもう帰ってはこない。そして、自分の周りに親戚がいるとも聞かされてはおらず、空がはれていようがいまいが、妹と共に天涯孤独になったのだ。自分に何ができるかはわからないが、妹は守らなくてはならない。そう思った。そして、こうも決断した。『俺の父さんと母さんは理由があって殺された。死んだんだ。そうじゃないなら、死ぬはずがない。それ以上は考えない。でも、もしこれから先、何か手がかりがあるんだったら、絶対に逃さないぞ』
疲労困憊のなかでも、その気持ちは揺らぐことはなかった。そして、あの人の言葉が浮かんだ。
「いいですか? これから
私
たちはあなた方の看病に全力を注ぎます。特に、同情の上での行動ではないことを、よく頭の中に入れておいてくださいね。ですから、完治次第、ベッドから姿を消しても私たちは何もしませんし、何も思いません。しかし、もしこの家に住むことを決心したのであれば、私たちにおっしゃいなさい。快く迎えてあげましょう。ただ、出て行った後で引き返した場合は、謝罪をもって
私
たちのところへ来なさい。そうですね、自分は何ができないのかを完治するまで必死で考えなさい」
そういったのが彼女の言葉であるが少年には彼女の行っていることが良くわからなかった。
『つまり、出て行くのは自由って事? でも、どうして自分にできないことなんだろう?』
少年にとって、それも完治するまで考えなければならないことだった。
[Back][index][Next]ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・
こんにちは。
うーむ。全くといっていいほど前に進んでいませんね。それでも、じっくりゆっくり前には進めていきます。さて、前回、今回と少年少女が出てきましたが、名前のほうは次回公開されれば良いほうだと思います。名前は重要な変わりに出しすぎると混乱するものなので、少しずつ公開していきます。
さて、現在ですが私はテストがもう少しで終わり、はれて春休みに入ります。今年は自分にとって重要な年ですので、更新はもうちょっと遅くなるかもしれませんし、もしかしたら現実逃避のためにいつもより多く更新するかもしれません。それは、春休みに入ってからわかるかもしれません。かもしれないが多いのはわざとですので、甘んじてください。
それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。
乱筆多謝
作中ちょこっと解説
反芻(はんすう):過程を繰り返すことらしいですが、主に動物に使われるようです。