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 それから月日がたつのは早く、9歳だったクナは10歳になっていた。クナが成長したことがメトカーフ夫妻にとって最も重要なことであるが、それ以外にも重要なことはあった。
「クナさん! どうして俺の服を洗ったの!」
 少年は一着しかない服を現れて不満を声にして出す。
「服が無い? 服ならあります」
 クナは1年前とは少しずつ感情に豊かさを持ち始めていたが、ヴァージニアの教育がうまく行き届いているのか、まだ幾分か硬かった。しかし、今回は少し嬉しそうだった。
「自分の部屋のタンスを開ければ、何着か入っているではありませんか」
「そんなにアレを着せたいんですか!!」
 今日は快晴で春真っ只中、クナも後2週間ほどで第六学年になる。
「サイズはぴったりなはずです。ルフィンもああやってきてるではないですか」
 少女ルフィンはこれからナサニエル・メトカーフと一緒に買い物をしにいくため、玄関から出て行くのが、庭から見えた。2人に向かって手を振っている。つまり、言い合っている二人は、庭であり、竿には靴下や、上着がはためいている。
「確かに、サイズはぴったりです」
 そういうと、彼は自分の部屋――妹と相部屋だ――にあるタンスの中身を思い出し、ため息を吐く。そしてぼそりと呟いた。
「クゥ姉さんが作った服はセンスが無い」
「何か言いましたか?」
 ぴょこんと頭から黒い耳を出し、今度は聞き逃さないように努める。
「いいえ」
 しかし、もう一度聞き取ることは拒否された。
そんな時だ。
「メトカーフさん。お届けものです」
 玄関で声がしたのでクナはそちらに向かった。
「はい。ハンコですね?」
「ええ。リュール・メトカーフ様と、ルフィン・メトカーフ様宛です」
 クナはほんのちょっぴり笑って、ハンコを取りに行った。
 そう、メトカーフ夫妻に起こった重要なことは、『白葉族』の兄妹が家族になったことだ。








「あなた方がここに住むようになった事は私達としては大変うれしく思います。ですが、リュウ、フィン・カセフィキス、御2人からお話を聞いたところ、間違いなければ南へ二十数キロメートル行った所のこの村より少し大きいサスコから来たようですね?」
「はい」
 クナは全員に紅茶を――ナサニエル・メトカーフには既に砂糖が2杯入っている――はこんだ後、彼女もソファに座り込んだ。全員はテーブルを囲む形でソファが4つあり、ヴァージニアに対してナサニエル、彼女の右側にクナ、左側に彼等リュウとフィンが健康的な肌、髪のつやを完全に取り戻し、やや妹はうつろな目をしていたが兄は真直ぐな眼で彼女を見ていた。
「いくらか、情報を入手するために――」
 バサリとナサニエルが新聞を出し、そのページを開く。
「休みの日にクナがその町まで買いに行ってくれました。一軒の火事については掲載されていましたが、それ以上の事は書かれてはいませんでした。この地方新聞には」
 彼女は、何度も読み返していたため、特に眼鏡をかけずとも読み上げることができた。


 日刊サスコ新聞
 昨日の午後11時頃(8月5日)ここサスコのシロカウ・アヴェニュー、3番地で一軒カセフィキス家が全焼する火事がありました。火元は家内から発生したこともあり放火の可能性は低い模様。カセフィキス家には4人家族であり、大人2名の焼死体が発見されたところから、その家族の父親ルノー・カセフィキス(31歳)と母親カエデ・カセフィキス(30歳)と断定。なお、長男リュウくん(8歳)と長女フィンちゃん(6歳)は依然行方不明で、捜索を急いで行っているとの事。



「地方紙であることと、私達があなた方を発見した後の事でしたので、見つけるのには苦労しました。これが、次の日のものです」


 日刊サスコ新聞
 8月5日に起こったシロカウ・アヴェニュー、3番地のカセフィキス家の火災から発見された焼死体の検証を行ったところ、ルノー・カセフィキスさん(31歳)の頭部に鈍器で殴打されたような頭蓋骨の骨折と数箇所の刺し傷や切り傷が見つかり、同様の傷がカエデさん(30歳)にも見られていたことから、殺人事件の可能性を高め、捜査を開始。長男リュウくん(8歳)と長女フィンちゃん(6歳)の死体が見つからないことから、容疑者を2人と断定して――

「容疑者とは遠まわしに言う、犯人という言葉に近いですね」
「最近の通信による情報では犯人という言葉とそういいまわしていることが多いですからね」
「僕たちが犯人?」
 ビクリとフィンが身を固め、兄に身を寄せる。6歳といえど、犯人という意味は知っていたようだ。
「身体的にみて結果的に言うと“不可能”です」
「だな」
 クナの考察にナサニエルが同意する。
「じゃあ、どうしてこんなことが書かれ――」
「もし、心中であれば高い確率でまず子供を殺します。いきていると断定しているところから、判断したのでしょう」
「どうして?」
「わからんな」
「そう、わからないのは何故、情報操作を行なったのか? です」
 ナサニエルが紅茶を飲み干し、これ以上は調べる必要がないように、新聞を折りたたんだ。
「ふむ。この場合、一つ考えられるのはこの新聞の通り、家庭内での殺人。もう一つは外部からの殺人」
「はい。明らかに外部の殺人のほうが確率として高いです。そちらを隠すとなるのはその町にとって何か不都合なことか、或いは――」
「国にとって不都合なことか」
「よく、わからないです」
 リュウと、その妹は紅茶に手をつけてはいなかった。
「つらい質問をするようですが、あなた達2人は両親を殺してはいませんね?」
 クナは再び、紅茶をつくりにカップを片付け、立ち上がった。
「……」
「結構、目を見ればわかります。つまり、外部の者であること以外には考えられないということになります。では、犯人は誰かということになりますが……」
 一度、彼等に目配せし、また、テーブルに視線を移す。
「まぁ、誰かに殺されたって事が確実になったってことさ。どんな感じか覚えているかい?」
「緑色の眼をしてた。僕らよりずっと濃く、黒に近かったけど。あと……」
「あと?」
「角が生えてた」
「……。角どんな生え方をしていましたか?」
 クナが戻り、もう一度紅茶を配る。ナサニエルはテーブルにある自分の手帳を右手でとり、ぱらぱらとめくりだした。
「僕の耳の上からこういう風に生えていました」
 聞くところ、こめかみの少し後ろのほうから下の耳をぐるりと囲うように生えていたというのだ。
「黒獅(コクシ)だな。よく逃げられたもんだ。アイツ等は鼻が利かない獣人だ。多分火がついたときに物の焼ける匂いが強すぎたんだろう。うまく逃がしてくれなければ今生きてはいないだろうな。頭がよく、さぞできた親だろうな」
 妹はなにを言っているのかはわからなそうだったが、兄はうつむいたのを見て自分もうつむく。
「いや、過去形、か」
 ナサニエルは読み上げたメモ帳を置き、カップに手をつけ、2杯目――2杯目は必ずミルクがたっぷり入っている――を飲む。
「情報操作を行なったというより、行なわれたな」
「カセフィキス、カセフィキス……どこかで聞いたことがあります」
 クナが言った。
「確か……」
「今はヤムラの一部ですが、53年前に滅んだヤクオ国の参謀長の名前がK・ダルヌス。カセフィキス・ダルヌスですね。最期は国王だけを亡命させ戦死したと伝えられています」
「名前を苗字にして――」
「それは確実ではありません。カセフィキスはそもそも白葉族ではないのですから」
 ヴァージニアは言った。
「しかし、ヤクオの国民は各国々で常にかつての自国を想っている民ですから、あなた方をかつてのヤクオの人間と知っての犯行であり、あらゆる要素を含んだところ情報操作が行なわれた事は確実でしょう」
 ここまで話すとさすがに兄のほうも全くわからないようだ。
「つまり、快楽による殺人ではなかったということです。こういう言い方はいけないのですが、犯人からしてみれば意味のある殺人だったようですね。何かしらの目的があったということです」
「でも、お母さん達は死んじゃったし、フィンは……」
「そうですね。失われたものは多かったと思います」
 2杯目も兄妹は手をつけてはいなかった。
「ですが、前には進まなければならないと思います」
 クナが言った。
「事実を受け止めてから、先に進まなければ、いきてくれるように願った両親達はきっと救われないはずです」
「そうですね、クナ。しかし、今日この場でこの話をする前に私はリュウから許可を得ているのです」
 ナサニエルは老眼鏡をかけ、まるでこの話が終わったかのように今日の夕刊を読み始めた。
「今日、この時からお二人は私達の家族になることを決意されたそうです。フィンについても意見を求めるべきでしたが、この判断は難しいでしょう。リュウ一人に委ねるかたちをとりました」
 ヴァージニアは続けて、
「さて、名前のほうですが」
「変えたほうがいいな。向こうが事実を捻じ曲げるなら、こっちもだ」
 それにはクナが反応する。
「お父様。向こうがこうやるからこちらも。という考えは私は感心しません。他に――」
「私はナットの意見に賛成ね」
「え?」
「クナ、この子たちはこの歳では体験するはずのない体験をしました。それは乱れた世の中が起したことです。その中でどのように上手に生き残るかが重要なのですよ?」
「しかし――」
「しかし、やはり、聞かなければならないのはこの子たちの意見ですね」
 どうしますか? という視線を兄妹に向けた。
「……」
「突然ですからね、すこし考えて――」
「僕らはかまいません。犯人ということは、見つかったら捕まるんでしょ?」
「真実を述べれば、助かる。という保障はありませんね。情報が隠されている時点で、思い通りに行く可能性は低いですね」
「しかし、名前を変えただけではうまくとは限りません」
 かろうじて納得したクナだが、まだそうでない部分があるらしく、不愉快な顔をしていた。
「それは、大丈夫です」
 それとは逆に、にっこり笑ってヴァージニアは答えた。
「さて、名前のほうですが――」
「リュール、ルフィンでどうだ? どっちもエルがついていいだろう。
「単純ですが、それでいいでしょう。それでは次は私が」
「久しぶりで忘れていないだろうなぁ、ジニー?」
 新聞を顔半分出るくらい下げ、顎をひき、眼鏡の上から挑戦的な笑みをみせた。
「失礼な。確かに久しぶりに使いますが、忘れてしまうような事はありません」
 彼女はゆっくりと兄妹の後ろへ回り――リュウとフィンは目で彼女を追う――手のひらを彼等の頭の上に乗せる。
「大丈夫、大丈夫」と、ヴァージニアは自分に言い聞かせた。
 くっくとナサニエルが笑う。
 それから、彼女がぼそぼそと何かつぶやくと、クナにとっては始めてみる光景が起きた。
 彼等の森の自然を象徴するような緑色の髪の色素が薄くなりブロンドへ変化していった。
「お、お母様――!?」
「次は瞳ね」
 瞳は水色に変化する。
「ほら、大丈夫でしたでしょう? おそらく、10年弱はもつでしょう」
「くっく。言い聞かせが聞こえてたぞ?」
「そ、そう?」
 別にいいじゃありませんか。と、成功したことを認めてほしそうだ。
「ま、いいけどな」
「お母様、一体……」
「そうか、クナは初めてだったな。ジニーの手品は」
「手品?」
「手品ではありません。歴とした魔法です! 手品はタネがありますが、私のはこのようにタネもシカケもないではありませんか」
 ナサニエルはそういわれても、聞き流すことにしていた。
「はいはい、そうだな」
 そう言って、新聞のもう一枚めくる。
「魔法、ですか?」
「いくら言っても手品だと言い張るので、使うのを……40年くらい前にやめてしまったのですよ。まぁ、そうあるべきなのですが」
「は、はぁ」
『魔法……術とは違う不思議な力……まさか。魔法使いは自分からは決して名乗りでないはず』
 ヴァージニアを疑うわけではないが、基礎知識からひとまず手品に自分の考えを落ち着かせた。今度、詳しく調べてから――ヒトに聞くより、自分で調べることをクナは優先した――ヴァージニアに聞こうとクナは思った。
 鏡を兄妹に渡し、先ほどまでの自分と違っているのに驚き、特にフィンは眼を丸くして、自分の顔を触るより、鏡を指先で触ってみたほどだ。リュウは彼女が泣き出すかと思ったが、そうでなくて安心したようだ。
「さて、リュウ・カセフィキス、フィン・カセフィキス。2人は今日からあなた方は、リュール・メトカーフ、ルフィン・メトカーフと名乗らなければなりません。皆さんには私達が話しておきましょう。これからは、お客様扱いはしません。私達の息子、娘として接していきます」
 ヴァージニアは言った。
「ただ、忘れてはいけない事があります。貴方達二人はルノー・カセフィキス氏とカエデ・カセフィキスさんの自慢の子供であることです」
 彼女はふぅと手を頬に当てて。
「成功してよかったわ」




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もし、何か気づくこと、観想などがあれば、お願いします。

 

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 お久しぶりです。
 段々とオフでの忙しさがにじみ出てきました。というわけで、此処までかけました。決して、決して、もう、本当に決して遊んでいたわけではありません。まぁ、少しくらいは遊びましたが。
 さて、今回のお話ですが、これほどこの2人の話を長くするつもりはなかったのですが、この通り長くなってしまいました。苗字である、カセフィキスは私の好きな小説からとったものです。実はこの2人のエピソードも考えているのですが、おそらく、私が暇で暇でしょうがなくなったときにならなければ公開されることはないかと想います。
 次に、クナですが、次回あたりからゆっくりと動きを見せるかと想います。
 それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。

 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説
魔法:いずれ詳しく解説しますので、今回は不思議な力ということにしておいてください。


 

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