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「お父様、ただいま帰りました」
 クナは自分の同じくらいの背丈の人間を抱えても足音は静かだった。
「ん、どうだったかね、音楽会というのは?」
「はい。とても楽しかったです」
 ナサニエル・メトカーフはちょうど彼女に背を向けた形でソファにすわり新聞を読んでいたため、彼女の背負っているものを知らなかったし、あのガトーレ・ゴールコートが彼女の後ろにいることにも気がつかなかった。そして、彼女の表情を見るために新聞をたたみ顔を上げる。
「まず、ここに2人を寝かせなさい」
 彼の言葉に素直に従う。
「それから、肉屋の息子」
「あぁ?」
 少年を寝かせ、ロニー・フレハートを降ろすと、ナサニエルは彼の水月にこぶしを叩き込んだ。さすがにガトーレも一瞬呼吸がままならなくなった。
「コレでウチの娘を侮辱した罪はひとまず許してやる。お前は急いで家に戻って脂身の少ない自慢の肉と」
 彼もまた、ガトーレの眼光は無意味であった。クナに洗面所に行かせ、きれいなタオルを取ってくるようにいった。
「拳一発でひとまず許してやるんだ。そう、もっとほしそうな顔をするな、この手も歳には勝てん」
『くそ、どこにこんな力があるんだよ』
「ほれ、もう一発ほしければ来週にでもくるんだな。ひとまず頼まれたものを持って来い」
 ガトーレは一度舌打ちをした後、部屋を出て乱暴にドアを閉めて、嫌味をこめて歩いて家へ向かった。そして、近くにあった紙にさらさらとペンを走らせた。
「お父様、もってきました」
「コレをすぐに作りなさい。確かまだ、レモンが2個と半分あるはずだから」
「はい。お父様」
 彼女はさっと目を通してから料理に取り掛かった。
「さて、お嬢さん名前は? デクスターさんかな、それともフレハートさん?」
「フレハート、ロニー・フレハートです」
「なるほど。アイツめ、こんなかわいい孫がいるのか。自慢したくもなるわけだ」
「あ、あの」
「いや、こっちの話さ。手は痛むかい?」
「そ、それほどは」
 それを聞くと、2人よりも先に救護箱の中から消毒液と包帯を取り出して、処置を済ませる。
「ありがとうございます」
「さて、診たところ軽症ともいえないものだ。手伝ってもらえるかな?」
「よろこんで」
 ロニー・フレハートもナサニエルの手伝いに参加した。





 大人なら、彼の手際のよさに驚くかもしれないが、彼女の場合は少女であったためそのような印象は受けなかった。自分に道具を取らせるときはやさしく教えてくれるので先生のようにも見え、そのとおりに動く自分は 看護婦(ナース) なった気分だった。
 クナは学問が好きであったが、料理も化学の実験のようなものを思わせるために大好きであった。
「よし」
 小声でいうと、クナは居間へ向かった。
「お母様、お帰りなさい。レンスいらっしゃい」
「ただいま」
「おじゃましてまーす」
 ヴァージニア・メトカーフはゆっくりと、少年に水を飲ませ、気絶している少女には額や頬をなでて、血色を確かめていた。
「ナット。どうなの?」
「ん、外傷はたいしたことない。ぎりぎり脱水症状にも陥ってないな。この町に来るまで、野草を食べて食いつないでいたせいか、少年のほうは、栄養つけてぐっすり寝れば2、3日でよくなる」
「この子は?」
 額に当てていた手をそのまま上へ移動させ少女の髪をすくヴァージニアにナサニエルは耳打ちしたあと、ぽんと少年の頭の上に手をおき、
「坊主、大丈夫だ。体力を取り戻すのに時間はかかるが、問題はない」
 どうやら、病院へ連れて行かなくてもいいらしい。
 少年はそれでもうつむいたままで無言だった。その時、玄関でノッカーの音がすると、クナは玄関へ向かい、ガトーレを中に入れる。
「ガトーレ、どこに行ってたの?」
「家」
 そのままずかずかとナサニエルの前まで来て、肉を差し出した。
「遅かったじゃないか」
「別に急げって言ってなかっただろ?」
 彼は肉を受け取るとヴァージニアに手渡す。
「親父に言ったら、これもって行けと」
「あら、ありがとう」
 そういうと、彼女はクナを連れて、キッチンへ向かった。
 クナの料理とヴァージニアの料理はどちらが上と聞かれ答えるならば、間違いなくヴァージニアであった。料理において重要視されるのはもちろん味であるが、クナは、
「料理を見るたびに貴女の美術の成績に納得できるわ」
 盛り付けが下手だった。シチューは美的センスが問われなかったが。今日のディナーは栄養を取りやすいクリームシチューと、ハンバーグであった。シチューは病人2人のことを考え、野菜は細かく切り刻まれ、スープはより飲みやすいようにコップに入れても飲めるようになっていた。
「歯ごたえがないな」
 自分がメモをして作らせたものなのに、3人の訪問者と、2人の病人より積極的に文句を言っていた。少年は空腹であることは間違いないのに、料理に手をつけることはなく、2階のメトカーフ夫婦の寝室に寝ている少女に付きっきりであった。ヴァージニアとその少年少女以外は階下でディナーを楽しんでいた。いや、クナ以外はガトーレとの食事を嫌がり、老人を先頭に皮肉を言って楽しんでいたに過ぎないが、それでも普段よりはにぎやかな食事でガトーレは不満ながらも全く面白くないというわけではなかった。




 階下からは色々な声が聞こえてきていた。
「食べなさい」
そういっても、少年は手をつけることなく、じっと少女を見ていた。
「この子が目を覚ますまで、料理を食べないつもりかしら? それは立派だけど」
 ぐいっと少年をこちらに向けて――力はある程度戻っていても、彼女に逆らうことはなく――無理矢理シチューの入っているコップを突き出し、手に握り締めさせた。
「貴方が今度は寝込んでいる番になるわ。この子が目を覚ましたときにそんな状況だったら、この子はどう思うかしらね?」
 もう一度、食べなさいと念を押すと、やっとコップに口をつけた。
「ゆっくり流し込むのよ」
 そして、少年が一気に飲み干しても別に何も言わなかった。
「おそらく、貴方たち白葉族ね」
 少年少女は共に深い緑の髪を持ち、先ほどよりは清潔感は取り戻していたものの眼は隠し通すような暗い眼をしていた。肌は光が射し込んだ葉の様に白く、耳はとがり、まだ子供ということもあり、妖精を思わせていた。
「1週間前の新聞だったかしら、5人家族が強盗に――」
「強盗なんかじゃない!」
 少年はきっぱりと言い切った。
「強盗だったら、お金のないうちを襲ったりなんかしない!」
 コップをたたきつけて割ろうとするがヴァージニアがそんなことはさせず、コップを彼から静かに取り上げる。
「なら、快楽殺人かもしれませんね」
「かいらく?」
 ゆっくりと彼女は席について、
「ただ、殺すことが楽しいから殺した。お金は目的ではなく」
「そ――」
「いい? まだ平和でないこの世界では普通にあることなのよ。殺人者や怪物はこの世の中には必ずそこにいるの。決して今生きている人が普通なんて思わないで」
 少年は考えるために無言になったのではなく、現実を受け止めたために無言になった。
「みんな死んじゃったよ」
「ほん――」
「本当だよ!! 目の前で殺されたんだ」
 少年が見た現実をまぶたの裏で考え、左手の人差し指と中指を目頭において、ゆっくりと息を吸って、そして吐いた。
「そう」
 ヴァージニアはずっとそのまま、肩を小さく上下させているだけで、うなずくこと以外何も言うことはなく、まるで寝ているときのように、時計の音だけが聞こえていた。
「ごめんなさいね?」
「分からないよ。その後、家も燃やされたし、ここまで来るのに必死だったんだ」
 ヴァージニアは身の回りの人間が死を見たことはあっても殺されたところを見るということは今までなく、こういう言葉しか出せなくても少年は正直に答えてくれた。
 そして、彼女はひとつの考えが浮かんだ。彼女はまっすぐ少年を見る。
「これからどうするつもりですか?」
 少年はこれまでのことは思い出すこともできるが、これからのことなんて考えたことはなく、事実これから先のことなんて夜のように暗いことしか考えられなかった。
「もしよろしければ、ここに住みますか?」
「――え」
「私たちが信じられなければいつでも出て行ってかまいません。もちろん、その子と一緒に考えてください」
 少年は彼女が何を言っているのか分からなかった。









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 こんにちは。
 そしてごめんなさい。更新の空間が開いたにしてはひどく内容が薄いような気がします。コレは主観的なものなので皆さんにどう映るかはわかりませんが。
 さて、今回のお話の内容ですが長いようで実は短いかもしれません。普段ある日常を省けばとっても文章を短くできるなぁと思ったからです。別に楽しようと思ったわけではありません。本当です。
 人物名のほうですが、これから先どんどん出てきます。特にそのキャラたちを満遍なく使うというわけではないので覚えていなくてもいいですよ。なにぶん、西洋風味がにじみ出ていますので、人物名が多く出てきてしまうだけです。安心してください、ネタに困ったから、とりあえず新キャラ出して、場を繋ごうとしている訳ではありませんので。
 それともうひとつ、なんとか族というのが出てきますが、コレもそんなに重要視していません。今のところはただ単につけているだけですから。

 もうすこし、登場人物が増えてきたら人物紹介でもしようかしら?


 リクエストがくるまで待ってよう!!
 はい!
 面倒くさいだけです。

 それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。

 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説

今回はなーしです
 

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