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 大人四人と子供二人は一人の発言により、それは決行された。
「ビーワンの後ろにいるやつだ」
「わかり、ましたわ」
 先ほど剣――鞘におさめられている――と一緒にはじいて転ばされたビル・ブラックの背後にはレストランで感じたものと同様の彼女に向いてない曲がった殺気を出している戦闘員が斧を片手に持ち、振り上げていた。
 ビル・ブラック二人を弾き飛ばし、斧を持っている男のみぞおち、次いで首に一撃を食らわせ、壁に斧を体当りで突き刺し (あご) を蹴り上げた。
 三人は彼女のひるがえったスカートの中がどうして見えないのか殺気から不思議でならない。
「見えるようなら、 高足(たかあし) なんてあげませんわ」
 もう何人か倒した後に三人が一緒に殴られたのは彼らの視線が気になったからではなく、なんとなくである。
「これは (はかま) といわれるもので、どちらかというとズボンに近いものですわ」
「ヘェそうなのか」
 今度は確証があったので、遠慮なくひっぱたいた。
「こちらはいろいろと種類があり……きましたわよ」
 また、 () () をはじめる。
 彼らが演技をはじめたのはレストランでの会話、 () () という言葉にあった。さすがに、全員やるのはビルたちの心が痛むというものだったので、お互いに戦い合い、彼らをねらうものにだけ気絶に追い込んだ。それ以外のものにはそのときそのときで、説得に応じた。
 そしてわかったことはどうやら襲ってくるのはラルフがここ五年で入団させた者たちだという結果が出た。
「しかし、どう、して、俺たちに協力を?」
 ほとんど鞘で戦っていること、海賊にとらえられているのにナイフを突きつけ、利用し、脅迫などしないのは傍(はた)から見れば違和感があったが、それに気づくのは落ち着いて () () しているこの六人だけであろう。もちろん、このうち二人は目を閉じていてわからないだろうが。
「と、いいます、と?」
 一回彼女は力負けしたところを見せる。
「だって、そうだろ? 本当なら、俺たちがいなくたって抜け出せたじゃないか」
 そうは言っても結局のところ、船内にはラルフ側の戦闘員しかおらずほぼ全員倒すという形になった。
「ええ、そうですね。海賊に肩入れしたとあれば王宮では笑われ者ですわ」
 そうして、また一人、彼を攻撃するふりをして、背後の敵を倒す。
「でも、助けてといわれて助けないようであれば、もう一生王宮にはいられない。末代までの恥になりますわ」
 彼女の場合、自分を支えているのは足と剣技以外にもある。
「ま、俺はたすけてとは言ってないけど、な」
 ビル二人は彼女と対峙して、息が上がってきたのかお互い構え、やすむ。
「そういう自分の首を絞めることはこれからは抑えたほうが賢明ですわ」
 完璧に剣を相手に向けるのをやめ、
「いつか見捨てられるということか。どっちにしろ海賊になった時点で」
「いっぱいいますわ」
 自分が会話をしているのに相手が割り込み、自分がしゃべるのをやめてしまうのは、性格だけではないはずだ。きっと言っていることに自信がないのかもしれない。
 彼女は船の脇の通路に出るために自分たちの対峙している間の通路へ向かう。
「言っていることとやっていることが違う人間は。同じように、そのままの言葉の意味ではなく、状況や場合によって真意は異なります。ちがいますか?」
 彼女は鞘に結ばれている二本の (ひも) をほどいて、みだれた長髪を後ろで二つに結った。早くとせかす振り向く姿が汗と息が上がっているせいでより女性というものを引き立たせていた。剣技が相手の勢いを利用するためかミグナと違い健康的な体ではなく、ほっそりとした 体躯(たいく) で剣と腕がどちらが太いかわからないほどだ。
「だな。確かにそういう意味でさっきは言ったな」
「でしょう?」
 そういって、少し微笑み彼女は通路を歩き出した。
「さあ、いきますわよ」
 大きく深呼吸して、ひと段落を終わらせる。 
「あ、ああ」
 彼らもまた、あるきだした。
「でも、ずいぶん減りましたわね。もうそこのドアを出れば通路に出れますし、ビルさんとの約束もここまでです。ああ、まだ残っていましたわ」
 シュウヘイ、ヤヨをビルから受け取る。
「なにが?」
 わすれてしまったの? という顔で片腕男のない腕を見て、浅くため息をつく。
「ああ、これか」
「ここの船には、 紅燃(こうねん) 族がいますから 急溶解(きゅうようかい) してもらってから縫合すれば何とかなるでしょう」
「紅燃族ならうちのふ」
「私たちが負けない限り戻れませんわよ」
「どういうことだ?」
「私と強さを持つ紅燃族がひとり」
 表情から嫌っているのが見える。
「私よりずっと強い人がもう一人いますから。甲板にいる人たちはまず全滅してるでしょうし、おそらく今そちらの船長か副船長が戦っている最中じゃないでしょうか」
 それを聞いて三人は疑いを持ったが、事実彼女がやったことはこの船の中の自分の仲間をほぼ一人で倒し、息は上がって汗は出ているものの、まだ余裕があった。それを見ると彼女の言っていることは本当なきがしてきた。
「まあ、手ぐらいは治してさしあげますわ」
 完全に自分たちが勝っている目をしている。
「おまえ、性格悪いとか言われないか?」
「ええ、よく言われます。本当によく。さあいきますわよ?」
 彼女が子供たちを連れ、歩き出すその時、彼らを右手でつないでしまったせいか、彼女の右のドアから突然奇襲にあったとき剣に手が届かなかった。
 ミグナがあっと声を上げる暇もなく、片腕男ビル・ブラック飛び掛り、船のデッキへのドアまで押しやりドアを突き破り海に落とした。
「あ、あぶねェ」
 そういって、デッキに座り込んだ。
 彼女は唖然として、出た言葉が、
「ありがとう」
 だった。
「いや、まあ」
 彼女が彼のところに歩いていくのをかけていく男二人に抜かれる。
「おまえ、だいじょ……」
「……」
 駆けつけた二人は声が出なかった。片腕男は顔を上げると彼もまた声が出なかった。彼女が彼らに近づいて声をかけようとする時。
(キャ) 船長(キャプテン) !!」
「よう、ビル・ブラック」
 彼らのことをそう呼ぶのはいまではミルグラントだけである。
 ミルグラント・ビーは三人を上から見下すかたちで (あご) をひき、そして彼らが出てきた通路に目を移す。
「で、お前らの頭をフルに回転させてこの状況を説明しな。それともこのちィさいやつらにやられたのか?」
 そこにはおおよそ剣士と子供が二人見えた。
「ちいさいですっ……」
 ちいさいというのは子供たちのことかもしれないのに、ということはおいといて、ミグナは彼の放つ異様な殺気に 気圧(けお) された。
 相手の実力を計るのにはいろいろと方法があるが、それを計る前に彼女は殺気でわかってしまった。殺気の場合は勘違いもあるが、この場合は違う。彼女は剣を落としてしまった。
「ち、ちがうんです」
「なにが」
 レストランからの状況をありったけ細かに話した。腕を切られたこと、ラルフが何かしらかんでいることなど。もちろん、ミグナ・ハーティコートが協力してくれたことも。
 彼女はその間も子供から手を離さずただ立っていることしかできなかった。
「なるほど。その腕はあいつにやられたわけではないのだな?」
「はい」
 話を聞いている間、甲板のほうから大きな鐘が鳴ったような音が聞こえた時に一瞬みんな止まったのは今回は伏せておく。
「ふむ。君にはいろいろとお世話になったらしいな」
 ゆっくりと彼女に近づいていく。それと同時に殺気はうすれていった。
「いえ、べつに」
 すっと彼女の横を通り過ぎて奥の倒れた彼の仲間を見に行こうとして、彼女はひざから崩れ落ちた。
「だからといって、許すとは限らん。おい、ガキとこいつをつれてけ」
「あ、あの……」
「別に、殺しはしねェよ。仮にもお前たちを助けたわけだしな。だからといって、仲間を倒したんだ。一撃くらいじゃ足りねェくらいだ」
「そうですか」
「おまえらも、これが片付いたら罰が待ってるからな」
 そういって、またデッキへ出て甲板へあるいていった。


『やべェな。こいつ強い』
 手には指の出る鋼鉄の手袋をして、斬撃は何とか受け止めることができるものの、自分の手数と相手の手数を考えれば一目瞭然で、この言葉が相手に聞こえていれば、さらに悪い状況になっていただろう。
「さすが、副船長ともなると実力が違うね」
 お互い息は上がっていない。
「ラルフだ」
 ラルフは自分の名前を強調しながらどうにも納得ができなかった。何故、こうも獣人が遅れを取られなければならないのか! 劣るものなぞ何もならないはず!
 その疑問は口には出さなかったので答えるものは誰もいなかったが、出してくれる人が一人いたのは、ラルフにとってありがたくはなかった。
「甲板に残っているのはお前だけか、ケンドル」
 ミルグラント・ビーは納めた剣を相手の喉元へ左から突きつけた。ラルフは アレイジ(本能) を解くことは無く、相手をにらみつけたが、彼には海賊での人生が長いせいか自分の眼光が通じなかった。
「見てのとおりです」
 そういって、彼の視線を甲板へ促す。
 ミルグラントが見る限り、そこには少しおかしな光景が伺えた。この少しの空間は、ロウトーゼにも訪れ、周りを見渡す時間を与えた。海賊団一味――船長、副船長を除いて――が親子で川の字で寝るように同じ方向に頭を向け横たわっていた。船医であろう白衣を着た数人の者たちが指示を与え、少年と大人たちが看病していた。気絶から目を覚ましそうなヒトには容赦無しに麻酔を与えて。
「なにをやってるんだい?」
 構えている剣を一度解き、ミルグラントとラルフの代弁もかねてロウトーゼが質問をする。場に流れている殺気はひとまずどこかへ飛んでいった。
「なにって、看病です」
「看病?」
「あ、はい」
 もう自分は戦闘の蚊帳の外であるかのようにけろりと答える。
「だって――」
「敵だとしても、こんなに血を流して放ってはおけませんよ」
 一人の止血を終わらせて、また次のヒトの止血を始める。どれだけの人数を相手にしたのか、応急処置に手間取ることはなかった。
「海賊が悪人だということは知っていますし、わかっていますが、それが殺していい 正当な理由(ア ヴァリッド リーズン) にはならないと思うんです」
 コンタがロウトーゼより早く、そして多くの人数を倒す理由はこういう事だったのだ。彼ら二人の違いは打撃と斬撃の違い以外に、殺すか殺さないかも含まれていた。
 もちろんロウトーゼのほうも殺すつもりで切り捨てたわけではない。が、少年から見れば血しぶきは恐怖に違いない。世の中、血を見れば 躍起(やっき) になるヒトもいるが、この場には少なくともいなかったらしい。後悔はしなかったが、表情を苦笑いにし、
「それもそうだね」
 と、うなずいた。
「あ、でも、これはボクだけかもしれないし」
 決して、押し付けるということはしなかった。しかし、ロウトーゼは剣を片手で振り上げて、これにはラルフもミルグラントにも目がいった。
「じゃあ、私も」
 ゆっくり剣を鞘に戻し、
「これで、戦おうかな?」
 剣の 塚頭(つかがしら) に付いている紐を使って、鞘を抜けないように固定する。そして、少しかっこうをつけて、白い方に小粒の宝石がちりばめられたマントを脱ぎ捨てる。少年コンタにはそれはそれはかっこよく見えた。
「さて、さすがに二人相手は厳しいから、どうやら彼女にも倒せそうだし。リコ君、一人を君に――」
 ロウトーゼは少し下がっていなさいとコンタを促し、彼女にラルフを任せようとして目を向けたが、彼女はその言葉に反応することなく、ある一点を見つめていた。彼はその先に誰がいるか知っていて、見なくても彼女がにらんでいる理由を思い出した。つまり、ミルグラント・ビーの肩にかかっているものに気づいたのだ。
「おまえ、何してるんだァああ!!」
「リ、リコ君――!!」
 ロウトーゼがもう一度彼女を呼んだが、やはり聞こえてはおらず、彼女はほぼ垂直の壁を駆け上がっていった。先ほど彼に見せた少年のものより数段速く、力強かった。
 コンタも彼女を目で追って、少しおかしなことに気づく。彼女が踏み込んだ部分に注目すると、そこだけくっきり足跡が残っているのだ。最初は汚れかと思ったが、どうもそうではない。上へ行くほど跡はくっきり残り黒くなっていき、中盤あたりから煙が出て、そして足と拳を包むように炎が出てくる。
「うちの 三番手(ナンバースリー) に何してるんだァああ!!」
 彼らのいる所まで駆け上がり着地すると、飛び掛りながら叫び散らした。
 彼女がその 業火(ごうか) ともいえる炎で包まれた右拳で殴りかかると、構えるラルフを制し、ミルグラントが前にでる。しかし、彼は剣を抜くことはなく、 鍔上(つばうえ) で剣を握り彼女の拳を (つか) で受ける。その受けた拳の勢いををそのまま利用し、鞘で彼女の左こめかみを殴り飛ばした。彼女の力をそのまま彼女に返したのだ。
 受けた彼女はぐらりと目をくらませる暇もなく体ごと吹き飛ばされ、その体はぴくりとも動くことはなく、今度は同じ高さから自由落下を始めた。
「リコ君!!」
 ロウトーゼがすぐに助けようと、風を巻き起こすがそれよりも速く彼が動いた。そう、コンタ・ロスノフスキである。
 右手で彼女の後頭部、左手で両膝裏をしっかり抱いて着地する。着地の際、三人ほど頭から踏みつけて気絶させてしまった。
「ご、ごめんなさい」
 当然気絶していたので、片腕男を入れた三人の男たちは答えなかった。
 一応謝ったが、後でもう一度謝っておこうと決意し、彼女に目をやり、膝をついて泣き叫ぶ子供を背にゆっくりと彼女をおろした。
 何度か彼女に声をかけても返事はなかったが、息をしているのでひとまず安心して、たちあがる。
「女の人には優しくと教わらなかったんですか?」
「そういうのは礼儀を知らない紳士に言え。お門違いというのを教わらなかったのか?」
 肩にかかっている女剣士をコンタに向かって投げ、きっぱりと言う海賊団の船長のほうがどことなく説得力があった。彼はいきなりの出来事で戸惑ったが、何とか受け取ることができ、リコの横に同じように寝かした。
「ケンドル。アレイジで血が (たぎ) って仕方がないだろうが、あれは俺が相手をしよう」
 ロウトーゼを無言で見下げると、まるで風に乗ったかのようにふわりと甲板に着地する。
「じゃあ、俺がガキとジジィどものあいてをしろと?」
 ミルグラントに聞こえないようにはき捨てると、また一生懸命止血の手伝いをしている少年と乗組員たちに目をやり、ドスンと一人の船医の前に飛び降りた。
 そして、彼は一人の船医を軽くなでて、海へ叩き落とした。海へ落ちた音は船へ打ち付ける波の音が激しく誰にも聞こえなかったが、ボートや船上の人間には血 飛沫(しぶき) をあげながら頭から海へ落ちるところを見ることができた。
 彼の狼のような恐ろしい顔――事実狼の顔そのままだったが――にしゃべりかけたのは、二人目の犠牲者ではなくびしょびしょにぬれた、少年コンタ・ロスノフスキであった。
「なにかいったか、ガキ」
 先ほどのリコ・キリワタ、ミグナ・ハーティコートと同じように抱き、わき腹に大きな三本の爪あとのある男を寝かせ、
「殺すつもりでやったんですか?」
 相手をまっすぐみる。糸目のため瞳から気迫をうかがうことはできなかったが。
「海に入って泳いできたのか、きもちよかったか?」
「僕の質問に答えてください!!」
 その間に、ラルフの正面にいる次の犠牲者になろうクルーは逃げ出し、倒れている人たち以外の人間もかれら四人から逃げ出した。
「最期に思い残すことないよう、聞いてるんじゃないか」
 コンタは突然自分の前に出てきた狼の獣人に驚くことはなく、むしろアレイジになることでひとまわりもふたまわりも体格が大きくなることに驚いた。少なくとも、自分の家族の中にはいない。
「少し格闘には自信があるようだが、アビルロでもないヒトが、俺に質問するな」
 うなるような声がコンタだけに聞こえた。
「コンタ君、できるだけ逃げて……」
 彼の殺気を読み取ったロウトーゼが助けるという言葉をはかなかったのは、
「そんなに弱そうに見えるのか、この俺が」
 いつ引き抜いたかもわからないミルグラントの剣が彼の右わき腹めがけて切り上げて、彼は鞘で受ける。
「いえ、全然」
 ラルフと戦ったときの微笑は見せることはなく、冷や汗を流す。コンタを助ける余裕は彼を倒さない限りやってこないからだ。
『これは、てこずりそうだ』
 ガゴオォォオオン
 そう思ったとき、開戦の鐘の代わりをする () が聞こえた。それが明らかにさっきコンタが打ち鳴らした音そっくりなので、もしやもうやられてしまったのかと思い煙突に目をやると、
「ボクも同じ獣人です!!」
 脱ぎ捨てた帽子からは獣の耳がぴょこんと抑えられた寝癖のようにでてきて、おしりからはふさふさの尻尾が一本出てきた。煙突の先にいたのはコンタには似ても似つかない狼男ラルフ・ケンドル・ウルフだった。
「コンタ君、獣人だったんだ」

 
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 こんにちは、お久しぶりの更新になります。
 おそらく次がこの節最後のパートになるかと思います。さて、丸々一ヶ月更新ほったらかして何やっていたのかというと……
 秘密です。これはいえませんよ、絶対に秘密です。
 がんばっていたに違いありません。
 話は変わって小説のほうですが、決してほかの小説は書かないと豪語したのもつかの間、くろねこさまの方でリレー小説を書くことになりました。でも、この小説自体短編みたいな感じになりますので、文章力向上のためにやるといった感じです。もちろん、できる限りの手を尽くしますが。
 何はともあれ、この節は終了しそうです。かいていて思ったことは、バトルシーンはこんな感じでいいのだろうか、と考えたりします。バトルシーンを含む小説は暗殺とか、普通のけんかというシーンしか読んでいないからです。
 まあ、きっとこんな感じだろうと信じて、次の文を完成させます。
 それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。

 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説
  躍起(やっき):必死になること。うおお。
 

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