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 ラルフ・K・ウルフは少し高いところから、甲板の戦いを見ていて少し驚いていた。一人を除いて相手二人にこれほど押されるとは思わなかった。
 ロウトーゼ・カースクレイクは流れる川をのぼる魚よりもスムーズに海賊の川を逆流し同時に切り倒していた。決してとまることなく、一人ずつ確実に倒していた。
 一方、リコ・キリワタはいつ着けたのかもわからないグローブをはめ一撃で、その攻撃を受けた本人とその後ろの海賊を倒していた。その攻撃たるや海賊の波を逆流させるかのごとく強力だった。
 後から来たラルフ勢力が戦死に見せかけてミルグラント・ビー勢力を倒すという余裕は生まれなかった。
「なかなかもう少し、アタシに傷でもつけてくれないかなぁ?」
 そういいながらまた十数人を吹き飛ばす。
「んー。こういう大勢での戦いでは余裕がでるようなら、すれすれでやってみなさい」
 またもう一人、切り倒す。
「すれすれですか?」
「そう、すれすれ。船長さんたちに相手の攻撃が及ばない程度にね」
「はい」
 そう会話が出るくらい彼らには余裕があった。そして、特にロウトーゼには周りにも気を配る余裕もあった。
 彼が目をやったのはコンタ・ロスノフスキである。
 彼コンタ・ロスノフスキは苦戦、というより戦いの雰囲気がトレーニングの時とまったく違っていたので、その動揺と恐怖が混じりよけるのが精一杯だった。紙一重でよけているのが実力ではなくそのためだったのでロウトーゼが見る限り、不安でしょうがなかった。現によけきれてない部分からは血がにじみ、服が染まってしまっている。
 そこへリコが入りなぎ倒す。
「おまえ、下がってろ。逆に迷惑だ」
「リ、リコさん」
 自分のペースで戦ってないせいか彼は息が乱れている。
「ダ、ダメですお客様たちを……」
「ダメって、お前役に立ってないぞ? 全然倒してねェし」
「う、うーん。で、でもぉ」
 彼女のけりは空を切ることはなくあたった本人は船から落ちないための手すりに当たりぐったりと腰から落ちた。
「でも、じゃねぇ。いい、わかった?」
 そういって彼のあたり一面をある程度すっきりさせるとまた海賊たちの群に入っていった。
「あんなかんじでよかったですよね?」
 と、リコは一味をなぎ倒しながらロウトーゼに近づき、彼と背中合わせになって、ひそりとコンタが期待はずれということを伝えた。
「そう、だね」
 彼は残念な顔をする。
『やはり、無理だったか。さっきは、なかなかの体術を持っているかと思ったんだけど、筋力だけなんだ。でも、磨けば光るのかも……ん?』
 彼がふと思ったのは疑問ではなく驚きだ。コンタはは高く跳んで海賊たちを飛び越え、煙突の手前で着地した。
『やはり、戦線離脱か。でも、本当に鍛え方しだいで光るなぁ。どんな 能力者(アビルロ) なんだろうか』
 そんなことをため息をつき、考えてる間も彼の剣さばきは止まらない。
 コンタ・ロスノフスキは黒い鉄の煙突を手のひらでなで、何かを確かめているようだ。
『もし、普段の自分が出せないようなら』
「だせないようなら」
 自分の 師匠(,,) のことを思い出す。
 

 ガゴオオォォオン


『思いっきり頭でもぶつけて、一度考えたことを全部吹き飛ばしちまえ』
 それは暑い日の夕方帰り道の話。


「いったあぁい」
 打ったほうは額から一筋の血が出て、打たれたほうは無傷だ。
「壊さないように鉄にしたけど、じ、自分の頭の心配してなかったぁ」
 足取りがおぼつかなくて、かにのように右へ左へとふらふらしていた。
 甲板にいる全員の動きがこの轟音で止まり、みんな彼へ注目がいく。
 両手で頭を押さえ何とかしようとするが、どうにも足取りは戻らない。
「と、父さんのうそつきぃ。全然すっきりしないよ、痛いしくらくらするし、まっすぐ歩けないし、あっ血も出てる。もうっ、良いとこ一つもないよ」
 独り言が多いのは性格ではなく、昔から一人で遊ぶのが好きだったためだ。
 しばらく動きや雰囲気はとまったままで、コンタの足取りがそろそろ戻ろうとしたときに、
「なにをしている。早くしろ!!」
 戦いを動かしたのは高みからみおろしているラルフ・K・ウルフだった。
 叫び声にも似た声で、また戦いは始まり、当然それはコンタ・ロスノフスキにも及んで、戦闘員が何人か向かってきた。すると、
『あれ? ボクなんでうまく動けなかったんだろう?』
 本当は頭に悪いことなのだろうが、記憶が飛び、変に頭がすっきりしていた。
「死ねェ」 
 一人が大きく口を開け剣を振りかぶり跳びかかってきた。
 コンタは右足を引き、体を開いてその攻撃をよけ、相手の頭上に 左掌(ひだりてのひら) を置くと跳び上がり、そこを中心に一回りし、彼の後ろにいる数人もろとも飛び越えて彼らの背後をとる。
「やあ!!」
 彼らに後ろを向く隙を与えず、ふくらはぎに力を入れて体当たりして、全員をその煙突に打ち付けた。
 相手はずるずると立つ気力もなく床に崩れて、起き上がることはなかった。
「えっと、とにかくロウトーゼさんよりも速くみんな倒さなきゃ」
 彼と距離があってもロウトーゼは聞き取ることができた。
『私より?』
 コンタの動きがよくなったことより、戦闘が始まったときから気になっていた彼の視線にロウトーゼは疑問に思った。
 彼はどうしてあの少年が自分をずっと見ているのか彼の糸目を見ても読み取ることはできないし、気にはしないようにしていたが、今はっきりと気にするようになった。
『なぜ、私より速く?』
 そう思いながら、また 一太刀(ひとたち) 海賊に振りかざす。
 相手は大量の血を 噴出(ふきだ) し、ひざから崩れ落ちた。 


「おい、戦況はどうなっている」
 ミルグラント・ビーはベッドから身を起こして、犬が (うな) るような低い声で部屋の外にいる部下にしゃべりかけた。
「滞りなく」
「もうすぐ、かえってくるかと」
 物音が部屋の中で聞こえると船長室のドアが開く。
「せ、船長」
「お体のほうは」
「うるせェな。見ればわかるだろう」
 顔色がよくないのは帽子をかぶってできる影のせいではないのがよくわかる。
「じゃあ、船番たのむぞ」
「え、あ」
「もう、ゆっくり寝てるのは飽きた。よくなる気がしないしな」
 聞こえる独り言を残して、彼はゆっくりとアルカベルノ号に向かっていった。
 団員二人は船長に聞こえないように、
「おい、どうする。あいつ行っちまったぜ?」
「どうするも……」
「ラルフが言うにはすべてが終わった後、船長を片付けるって」
「じゃあ、 () るのか?」
「だが、腐ってもこの船の船長ミルグラント。薬が効いて弱ってはいるが、普段の実力なら本気のラルフ以上なんだぜ?」
「まあな」
「どうするか」
「……」
「……」
 二人とも考えているうちにどんどん船長はアルカベルノ号に近づいていく。
「とりあえずだ」
「とりあえず?」
 一人がまっすぐと船長が船から船へわたるのを見て、胸を張り、
「船長のいうことは絶対だ」
 そう言うともう一人のラルフ側の人間も無言で胸を張って船番に専念することにした。


 彼コンタ・ロスノフスキは鉄の煙突に頭突きをしてからというもの、海賊におされることはなかった。
 ロウトーゼ・カースクレイクが川を上る魚で、リコ・キリワタが流れをものともしない岩ならば、コンタ・ロスノフスキはその川の流れを利用する水車のようだった。
 相手の力を利用して相手を投げ飛ばしたりして、倒していった。
「すごいと思わないかい、リコくん? スタイルとしてはミグナくんに似ているが、すこしちがう」
 彼にとって最後の一人を切り倒す。
 リコも一人を腹に一撃を食らわし壁まで吹き飛ばした。
「ミグにですかァ? それはあの子に失礼じゃありませんか?」
 ロウトーゼは剣を鞘に納め、リコは最後まで高みの見物をしていた彼を見る。
「さて」
 この光景を見てもラルフはひるむことなく、むしろ (いか) りをあらわにしていた
「隊長、あいつかなりできますよ」
「かてそうにないかい?」
「冗談はやめてください。ここにねっころがっているのよりってことですよ」
「そう。さすがに君くらいの強さになると目がはたらくね。でも……」
 彼に目を移す。
七三(ナナサン) で君はまける、残念だけどね」
「え、そんなことは……」
「もう少し場数を踏めば、だね」
「……」
「どうやらさっきの会話を聞く限りあちらの船長は何らかの事情で戦えない状態らしいから、私がやるよ」
 彼女がミグナのライヴァルでお互いに切磋琢磨し実力を伸ばしているのは王宮兵士の中でも有名な話だが、それを可能にしたのは、彼女のいつも見せる挑戦心にあった。
 リコ・キリワタはいつも勝てるか勝てないかのギリギリの戦闘でしのぎを削り、今の地位にまでのぼりつめた。ミグナとは違い兵士の家系でなかった人の中ではここ数十年見ない異例の出世で、彼女の活躍を見た同じ条件の女性兵士からは憧れの的であり、男性兵士よりももてるほどだ。
 もし、将来リコが隊長になれば、王国では史上初の孤児あがりの女性隊長の誕生である。王宮の間では彼女の経歴を卑下(ひげ)するものたちも多いが、もうすでに孤児あがりの隊長が二人存在し、今の隊長格はみな絆が深く、それが下にもうまく通じていて卑下するものたちが少なくなっているのも事実だ。
「ちっ、つかえないやつらだ。俺が雇ったやつまでやられやがって」
 舌打ちを打ってそこから飛び降りた。
「それでは悪いんだけど、私が君を倒させてもらうよ」
 一度納めた剣をそのままで微笑みながら構える。
「気持ち悪いやつだな、そういう顔は女にしろよ」
 ラルフは特にナイフや剣を持っている様子はなく、襟や袖口がもこもこした毛皮のジャケットを着て、下は地は黒く雪を降りかけたような白い斑点模様のズボンをはいている。
「うーん。じゃあこれも君を油断させる手段かな?」
 その笑みを絶やさない。
 お互いもう、どちらからはじめてもおかしくなく、リコ・キリワタは二人の邪魔にならぬよう、バゼイシャーとコウタ――ほかのクルーは戦闘員と戦っている間に全員海に飛び込んでいた――を避難させた。
 忘れずに彼コンタも避難させようと視線を移すが、彼の行動は少し不可解だった。
「ご、ごめんなさい」
 といっては海賊一味の服を脱がしていた。
「何をしているんだあいつ」
 バゼイシャーとコウタはロウトーゼたち二人と十分距離を置いたところでどっかりと 胡坐(あぐら) をかいて、ため息を漏らしている。
「さあねぇ。一つわかることはロウトーゼ・カースクレイク氏が倒したやつ以外の者たちだということだ」
 こちらもため息。
「隊長以外、ですか?」
「バズ、ミス・キリワタ、私はコンタ・ロスノフスキくんではないのですが?」
 バゼイシャーはそっぽを向いて舌打ちをし、彼女はほんのりと頬を朱色に染める。
 ミス・キリワタといわれたことなんてめったになく、彼と同じようにそっぽを向いたものの人差し指で頬をかくという別の態度をとった。
「ん、こっちにきましたね」
「すいません。あ、あの手伝ってもらえませんか?」
 それが彼の第一声であった。
「はじめまして、コンタ・ロスノフスキくん。座ったままですまないね、私がアルカベルノ号の副船長です」
 コウタが差し伸べる右手を彼は両手でつかむ。
「あ、はい。はじめまして、ボクコンタ・ロスノフスキです。って、もう名前しってるんですよね。あはは、なんか変な感じだなぁ」
 左手を離し後頭部をかいて笑っている姿がぎこちなく見えるのは、
「それで、手伝ってほしいこととはなにかね?」
「……あ、あー!! そうでしたそうでした。皆さんで、あの人達の止血をしましょう。早くしないと出血多量で大変なことに」
「はぁ? コン、お前何言っ……」
「ボクやキリワタさんがやった人たちはとりあえず後回しにして」
「服を脱がしたのは、そのためか」
「包帯代わり?」
「あ、はい」
「あ、えっとコンタだっけか?」
「はい」
 リコ・キリワタはよくわからないという表情で、倒れている彼らを見ている。もう数人がおきはじめていた。
「海賊じゃないか」
 まじまじとコンタ・ロスノフスキを見る。
「そうですよ?」
 まじまじとリコ・キリワタを見る。
「この船を襲ったんだぞ?」
 彼女は腰に左手を当てる。
「ええ、まァ」
 彼は肩を落とす。
「でも」
「でも?」
 リコ・キリワタはコンタ・ロスノフスキのもみあげから耳が見えないのに気がつくが、別に変と思わなかった。
 彼は顔を上げて、
「切られたら痛そうじゃないですかぁ。そりゃあ殴られても痛いと思いますけど。そんなわけでお願いします」
 ぺこりと三人におじきをして見せた。
 彼らはコンタの考えがわからないということはなく、むしろとてもよくわかった。少年の発言の意味はそのとおりの意味でしかないが、ある程度の知識を持っている人がこれを聞けば、無意識の発言でもその裏まで読むことができる。
 コンタにとってよかったことは三人とも素直に納得してしまったことであった。
 彼はそういって脱がした上着を持ってきて、ロウトーゼよって切られた人たちを船の脇に置きながら必死に止血をはじめ、それからは彼ら三人に強制することなく黙々とひとりで応急処置に忙殺していた。
「バズ」
「ま、いっか」
 バゼイシャー・ガワーは胸の葉っぱを取り出した。



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 どうも、バロヴズです。
 もう二週間すれば学校が始まります。早くこの節を終わらせようとしても、なかなか終わらないのが世の中というものですから、しょうがないと思って、がんばろうと思います。
 ここで一番悩んでいるのは、船長と副船長にどういうことをさせるかということです。
 次にヒロインのことを書く予定ですので、がんばっているつもりでも、手が抜ける可能性がありますが、こんな小説を読んでいる皆さんのため、そんなことがないように勤めたいと思います。
 それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。

 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説
  孤児(こじ):両親のいない子供のことです。これはこの章。節でなくて章ではなかなか重要なところですよ。
  しのぎと削る(しのぎをけずる):簡単に一生懸命がんばり己を磨く。そんないみです。
  卑下(ひげ):見下すこと。
  忙殺(ぼうさつ):いそがしいそがし
 

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