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 二匹がアルカベルノ号から離れたすぐ後、コンタ・ロスノフスキはというと、
「うわー、うわー。この船にも恐竜がいたんだぁ」
 糸目のために、瞳(ひとみ)はまったく見えないが、これ以上ないほどの興奮がズボンから飛びだした尻尾の毛の逆立ち具合からうかがえた。
「あの恐竜、こっちのを投げたぁ」
 いままで帽子の中に隠れていた耳もその興奮のため、ぴょこんと飛び出て帽子を押しのけてしまった。
“おい……”
「うわっ。あの二匹また吼えた!! やっぱり戦うのかなぁ?」
 完全にパイプごしの声はとどいていなかった。
 しばらく、小躍りでぴょんぴょんはねてパイプの声も撥ね退けた。そして、だんだんと興奮が冷めてきたのか、尻尾はまたズボンの中へ消え、頭上に生えている三角の耳もまた帽子の中へ収まった。
 その間中もパイプ越しから何度も声が聞こえたが、別に無視しているわけではなく、まったく耳に届いていなかったのだ。
「あ、火を噴いた。やっぱり戦うんだ」
 もう一匹の竜が白い息をはき出すと、お互い頭突きや体当たりを繰り返していた。
 コンタは楽しいのもこれを見た一つの感想だが、細い眉毛をハの字にして、
「お客様を助けるためには仕方のないことか」
 哀しいのも一つの感想だった。
“い、い”
 パイプからの声がやっと彼に届いた。
「い? なんですか、よく聞こえません、バズさん?」
 ヒト型の右耳に、パイプを押し当てる。
“い、い、いい加減にしろぉ!!”
 耳を (つんざ) く割れそうな声が左耳まで貫いた。
「あうぅ。そ、そんなに叫ばなくてもぉ」
“叫んでも、聞こえていなかっただろう!!”
 終始、パイプの向こう側は叫び声だった。
「それで、何でしょうか」
“何でしょうかじゃねぇ。早く戻って来いといっただろう!!”
「は、はい!!」
 片足を見張り台からだして、降りようする。
“ただでさえあいつのせいで、無駄な時間くったっていうのに”
「あいつ?」
 そこで彼の思考がそがれ出した足のことを忘れる。
“何でもねぇよ!! さっさと降りて来い!!”
「わ、わかり……わっ、うわぁ」
 出した足のほうそっちのけで、もう一方の足も出したもんだから、まっさかさまとはいえずとも、メインマストの半分くらいまでは重力に逆らうことなく、落ちた。


 二匹の竜がそろそろ終盤戦を迎えるころ、一つの船がもう一つの船に追いついた。
「いっちばんのりー!!」
 ミルグラント・ビーの戦闘員一人がアルカベルノ号後部に降り立って、ナイフを取り出した。そして、次から次へと乗り込み、船内と船外からそれぞれ襲い始めた。
 振り向いて、
「しかし、副船長……」
「ラルフだ」
「ラルフさん。本当にいいんですね?」
「ああ、ミルグラント船長は今調子が悪い。早く終わらして祝杯あげればすぐ良くなるさ」
「そういうもんなら、早く終わらせっか」
 そういうと、彼もラルフに背を向け走っていった。
「さあて、 こちらも(,,,,) はじめるか……」
 彼はアルカベルノ号に背を向けて歩き出した。


 途中で中から出てきた戦闘員が中の状況をまたほかの仲間に話すと、よくわからない顔をしていた。それは中のどこを探しても、人が見つからないからだ。しかし、乗船していないわけではなく、部屋に物品は置いてあった。
 そして、船首に向かったものだけがその理由に気づいた。
「乗船手続きもしていないのに乗り込んでくるとは、さすが無法者だな」
「別に礼はいらねぇぜ」
「そうか。失礼な奴だな」
「あんがとよ」
 騒々しい音が聞こえると、ドアから残りの海賊一味もずらりとそろい、ちょうどクルーたちと向き合う形になった。
 もちろん、そこにはコンタ・ロスノフスキもいた。
「いまなら船を沈めなきゃあ、好きにしていいぜ」
  恰幅(かっぷく) のいいところをバゼイシャー・ガワーはみせた。当の相手はというと、少したじろいだ感覚で顔がゆがんだ。
「ほれ、早く () るもんとって、早く帰りな」
 別に怒鳴ってはいないもの、妙にかんに触る言い方は海賊に対しても、変らなかった。
「ほら、ここにもありったけの貴金属があるから」
 彼の指す方向には、小船に乗るまえにコウタ・クロイが指示し貴金属類を置かせたのだ。どうしても離さない人がいないのは天秤にかけるのものが貴金属より重いものがあると言えば、すんなり手放してくれた。
「しかし、普通一番先陣を切っているのはミルグラント・ビーと副船……」
「ラルフです。ラルフ・K・ウルフ」
 彼ら戦闘員を押しのけてラルフ・K・ウルフが現れ、コウタ・クロイの発言をさえぎるが、しかし、彼は動じることもなく、
「別に謝るつもりはないよ、ラルフ・ケンドル・ウルフ。副船長は別に名乗る必要もあるまい」
 彼の名前を知っていることを証明してみせた。
「それがこの船の決まりなのか」
「いや。ただ……」
 そこで、コウタ・クロイは眼帯を一度はずし、もう一度付け直し無言で彼を見た。
「ただ?」
「ただ、当然ことを言っただけだ。副船長は表に出るべきじゃないと思うからね。なぁ、バゼイシャー・ガワー?」
 コウタは少し前へ出て、わが船の頭(かしら)の肩に手を置いて、顎を引いた。
「おい。そういう言い方で俺の肩たたくと俺が副船長みたいじゃねぇか!!」
「そうか?」
 彼らがけんかするのに時と場合と状況は関係ないようだ。しかし、言い合いになる前に、
「困るんだよ、こういうことされちゃあ!!」
 うってかわったようにラルフの声量が大きくなった。
「せっかく、全員皆殺しにしようと思っていたのに」
 これを聞いて驚いたのは、言った本人ラルフ・K・ウルフとバゼイシャー・ガワー、コウタ・クロイ、そしてロク王国の隊長を抜いた全員、つまり、海賊一味も驚いていた。
「ラ、ラルフさん、 ミルグラント(キャプテン) がそういったんですか? あの人は」
「こいつらに話してなんになる」
 ひどく暗い薄笑いは一味に向かっては決して彼は見せなかった。相手を信じさせる時には言葉よりも表情が重要視されることをよく知っていた。
「うちの事情をこいつらにな」
 ラルフはこの海賊団にはいり、おかしいと気づくまでにさほど時間はかからなかった。船長に敬意を示すのはわかることはわかるのだが、この一味は海賊団自体にある種のプライドを意識している。ラルフにとってこれは 滑稽(こっけい) 以外の何者でもなかった。
 ただの人生の落伍者がこのような統率力をお金でかっているわけでもないのに。
 彼はただ、海で大暴れがしたかっただけで、この事実に気づいたときすぐにこの船を降りようとしたが、そこからまたどこからか船を奪い仲間を集め、団を築くのはいささか簡単すぎた。
 ラルフは自分で作ったのより、他人が作った物のほうが執着が無く、いつでも捨てられることをよく知っていた。しかし、自分なりに苦労を惜しまず、船上の戦いにおいては戦死に見せかけたりして、不必要なものは捨てることを惜しまず、外からも着実に勢力を増やしていった。
 数年と時間をかけたが、不審な動きをしたのにもかかわらず船長は特に干渉はしなかった。
 やがて、おおよそミルグラント・ビーと勢力が同等になり、今回が船長に這い上がるチャンスで、最初に彼の勢力だけを突入させ後から自分の勢力でもろとも処理するというのが第一段階の計画だ。
 もうすぐラルフ側の戦闘員たちがこちらの船に乗り込んでくるころだろう。
 早く戦闘に移すこと自分の計画だ。
「まあ、いい。どっちにしろ俺たちはこんな客船の船長たちに馬鹿にされたんだぞ、本当に宝だけもらってずらがるのか?」
 バゼイシャー・ガワーたちがあまりにも彼らの拍子抜けする行動をとったので忘れていたが、よく考えればそのとおりだった。
 彼らは自分が海賊だということをこれでもかというほどわかっていたので、自分たちにとって思い通りに行くということがどれだけおかしいかわからないわけがなかった。海賊は自分の思い通りに行かないことを思い通りにすることであり、最初から思い通りに行くようであればわざわざ反抗するという考えの持ち主であった。
 この客船の船長のやったことは明らかに自分たちの思い通りに動いたものであり、客船の乗客は殺さないでも船長たちを許すわけにはいかなかった。
「そ、そうだ、俺たちは海賊だ、奪うものが無いんだったら……」
 一味は全員戦闘時おける険しい表情へと、同時に雰囲気も季節のようにがらりと変り、手にナイフ、サーベル、ナックルダスターを装備すると、
「無理やりにでも、十数人はやらねぇとな!!」
 五十人以上の人間が雄たけびを上げると、これもまた竜に似た揺れを起こした。
 アルカベルノ号船長、副船長はその雄たけびを聞くと海賊船副船長を 一瞥(いちべつ) し、彼に背を向けて一人の男に向かって歩いて交差するときコウタは彼の肩に手を置き、
「じゃあ、頼みますよ、ロク王国三番隊隊長ロウトーゼ・カースクレイク?」
 そういって、彼は船首まで歩いて歩いていった。さすがに彼の場合は船から下りて逃げるということは無かった。
 ロウトーゼは乗船時に自分の王国の所属隊なんて書かなかった。
「あの人に知らないことはあるのですか、バゼイシャー・ガワー船長?」
 無言のままバゼイシャーを行かせなるわけも無く、彼はたずねた。
「ん、ああ、あいつの知らないことか」
 彼と交差して、二歩くらい進んだ後、
「ああ」思い出したように、「自分に孫ができたことじゃね? あいつ息子と喧嘩中なんだ」
 くっくっくと笑いながら、彼もコウタの場所へ歩いていった。
「厳格そうだもんなぁ」
 リコ・キリワタは聞こえる独り言を横から入れる。
「さ、やりましょうよ隊長」
「ん、そうだね」
 リコはこぶしを握って構え、ロウトーゼは右手で左ごしの剣に手をかけた。相手も臨戦態勢ばっちりだ。
「さ、ミグナ君も……」
 右にはリコがいるときは必ず左にはミグナがいるのに、そこには彼女と身長は同じくらいの水兵帽をかぶったクルーがいた。上から見下ろしたので顔はわからなかったがすこし首をかしげた後、
「コ、コンタ君!?」
 一番最初に浮かんだ名前を口に出した。
「やりましょう、え、えとロウトーゼさん?」と、ぎこちなく周りから聞き取った名前を口に出した。
 そこには彼女以前に女性ではなく、少年コンタ・ロスノフスキが帽子をかぶってたっていた。



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 今回は早い更新でした。
 一年たっても、ストーリィが進んでないことに気づいたからです。
 何年で、終わらせるか考えていませんでしたが、なるべく出したいことをだして、終わらせたいです。まだ、仲間のこと全然書いていませんからね。
 はやく、この船上の戦い終わらせて、クナの事書かないと
それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。

 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説
劈く(つんざく):これは勢いよく突き破る。突いて裂く、ついてさく ついさく、つんざく。
恰幅(かっぷく):いいひと?
ナックルダスター:んー。あれですよ。手にはめて、攻撃力を上げる道具です。メリケンサックとかです。

 

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