二匹は水面上で戦い傷ついているにもかかわらず、お互い楽しくて仕方がなかった。もともと、竜は好戦的であるのに数が少ないため海で出会うことは
稀
であった。
海氷竜はウミガメのような手で、水をかき上げ空に放った。彼の能力は名前のとおり、水を凍らせたりするのが得意でかき上げた水を凍らし、海炎竜に落とした。
「
氷塊昇
」
いくつもの氷の塊が海炎竜に向かって振りそそいだ。彼は上を見上げ、
「人間になら
塊
かもしれないが、竜にやるならもうすこし」
「いや、塊さ」
「なにをいって……ぐ!!」
海炎竜は腹部に鈍痛がほどばしり、体が大きく傾いた。それでも何とか上から降ってくる氷は自分の口から出した炎で蒸発させた。
「な、塊だろ?」
彼が上から氷を降らしたのは水中の注意をそらすためだったのだ。海炎竜はちらりと水中に目を向けると、そこには自分より大きな氷の塊があり、実際水面出でているのは、そのうちの何十分の一であった。
彼はその衝撃でぐったりと海面に首をたれ、口は開いたままだ。
「これはきいただろ?」
海氷竜は首を前後させながら近づいてきて、首と同じくらい長い尻尾を相手の首に
螺旋状
に巻きつけた。
「これで、おわりだ」
自分の尻尾に力を入れようとしたときも海炎竜の目は死んでいなかった。
「それは」
海炎竜は頭を動かし、口を相手に向けて開いてみせて、火炎をはいた。
海氷竜の一瞬の隙をついた攻撃で、相手は顔をすぐに背けて何とか顔面に直撃するのを防いだ。
一瞬の隙は戦いの熟練者なほど自分を有利に持っていくことができ、彼の場合はこの
怯
みを逃すことなく、防ぎ終わった相手がまた自分に顔を向けたとき、自分のときは腹の下に激痛を走らさせたが、今度は相手の
顎
の下に思い切り自分の頭部をぶつけ、突き上げた。
海炎竜は自分の頭で頭突きをしたため、そのときの相手の
顎骨
の鈍い軋み音が聞こえた。
「俺が終わらせると言う意味か?」
海氷竜は火炎を受けた時点で相手がおそらく何か仕掛けてくるとふんだため、致命傷には至らなかったが予想以上の衝撃に相手をまっすぐ見ることが困難になった。
海炎竜は自分の首にさほど強い力で巻きついていない相手の尻尾を振りほどき、上体を大きく上下させながらいきを吸っては吐いていた。
「くそっ!! 息を吸っていたとは」
海氷竜は決して自分をののしったわけではなく相手を叱咤した。彼の口の
端
から出る血が痛々しかった。
「むやみに隙を……げほっ!!」
海炎竜の口からも血を吐き出した。
「お前、どれだけ大きい氷を腹にくらったと思ってんだ、な、内臓はもう、め、めちゃく……」
突然大きく彼の視界が揺れ、相手の周囲以外は真っ白になって何も見えなかった。
「お、お互いもう、しゃべらないほうがいいな」
海炎竜はつっかえた血をせきをして吐き出し、顎を下げるのを精一杯で相手をにらみつけた。
「そうらしいな」
お互いしゃべるのでさえ攻撃に感じてならなかった。
先に仕掛けたのは海炎竜のほうだった。
息を吸って火炎を吐くかと思ったが、その火炎を一回口まで持ってくると、もう一度首の下まで追いやり、のどで一往復させてから吐き出した。
一往復された火炎はさっき吹きかけたものとは温度が幾度も上がり、威力が倍加されていた。
しかしその炎は海氷竜にかかることなく手前に落ちた。それにより、水蒸気が舞い上がり相手の視界を完全に奪う。
彼の周りにはもうもうと湯気が立ち外からも中を確認することは難しかった。海炎竜はそれに臆することなく近づき後ろから回り込んで相手を確認できたところで背中に噛み付き、海氷竜は上を向きながら鳴き叫んだ。
「へへ。すぐに楽にしてやる」
彼はもう一度さっきと同じ動作を二度、三度と繰り返し、水蒸気を立ち上らせたのとはくらべものにならないほどの火炎を噛み付いたまま吐き出し、海氷竜の体に送り込んだ。
ボオオォォォアアアア
普段ならありえない黒い煙がそのまま海氷竜の口から出てきた。
「あ、あがガ」
「ハハ、俺の勝ちだ!!」
「あ、あが。オ、俺がただ湯気のなかで、な、何もしてないと思ったか、海炎竜?」
そういうと、海炎竜の周りの海水が固まり始めた。
「海にいるやつだって、がんばれば飛べるんだぜ?」
彼の足だけが凍りついて浮かび、自分の体の何倍以上の氷の翼が出来上がり、彼は相手の牙を振りほどて羽ばたき、飛んだ。
しかし、飛んだといっても海上数十メートルで、人間が見たら飛んだと表現するが、巨大な竜にとってはどちらかというと跳躍の表現に近かった。
「飛んだって、何も……!?」
海炎竜は湯気が晴れて初めて自分が何かにせり上げられていることに気づいた。彼は自分の周りだけが凍ったのではなく海水全体が厚く板状に凍っていた。顔を近づける必要もなく自分の下一面に鋭くとげとげしい氷山がいくつもできていた。上を見上げると逆光で黒くとしか見えなかったが、氷の翼が折れているのが見え、自分に向かって落ちてくるのが分かった。
「ま、まさか……」
送り込めなかった炎を相手にかけるまもなく自分の背に自分と同じくらいの体格が勢いをつけて落ちた。
ゲギャアアァァァオオオオ
海炎竜は海氷竜の下腹にも氷のとげがついているのに気がつかなかった。
氷にはさまれその両側と口から血を吹き出す。海氷竜も突き上げの衝撃により血が吹き出た。そして、ぐらりと揺れると海炎竜の隣にごろりと仰向けに横に倒れた。もう、氷の島といっていいものだったので二匹が倒れても沈むことはなかった。
「こ、の、勝負、ひ、きわけ、だ、な」
海氷竜は顔を空に向け、かすかに動いた。
「じょ、冗談。さ、きにめ、めを覚ましたほうが、か、勝ちさ」
もう凍りにぐったりと首を寝かせ、血を流すだけで鼻で笑う力もなかった。
「オ、オウケイ……」
蒼
い竜は頬を氷につけ倒れた。
「と、とどめ、めは、そん時だ……」
口からまた、大量の血を出し、
茜色
の竜も氷の上に倒れた。
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こんにちは、Barovsです。
はい、戦い終わっちゃいました。
竜同士ですが。
いかがでしょうか、戦い風景っていろいろありますが、初めて書いたもので自信がありません。おそらく表現上作者視点で書いているので、創造するのは難しいかも。
これは何より、私の器量が今はここが限度なのです。
これから精進してより読者に読みやすい表現にしたいと思います。
次回は、いよいよ主人公の戦いに入ります。
たぶん。
それでは、次回もかけたら、がんばって続きを書きます。
乱筆多謝
作中ちょこっと解説