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「まいったな。まさか海炎竜と暮らしていたとは」
 全員が甲板にいたこともあり少し混乱はあったが、小船に乗客を乗せるのに苦労はさほどなかった。
 そして、後に胸の葉っぱから聞こえてきたのは良い連絡ではなく、海に住む竜、蒸気船、風使いが帆に風を送るという三つの加速原理が向こうの海賊船にあるというものだった。
 こちらにはひとつしかない。
 追いつかれるのは時間の問題である。
「さて、もし逃げたいなら君たちも早く海にはいりなさい」
 コウタ・クロイがクルーに呼びかけると、数名が飛び込んだ。
 彼は例の三人のほうへ向き、
「それでは、お願いできますか、ロウトーゼ・カースクレイク様、ミグナ・ハーティコート様、リコ・キリワタ様? 海炎竜のほうはかまいませんから」
「わかりました」
「お任せを」
はい(イエッサー)
 三人は返事をしたが、一人は不思議そうで、
「しかし隊長、竜のほうを放っておくというのは、どういうことでしょう?」
 ミグナが質問した。
「ん、それも私には……」
「それは簡単ですよ」
 コウタがロウトーゼの発言をさえぎりひとつの目を閉じて
「こちらにも……」
 ボオオォォオオォォ
 彼の背後から長い首を出し、ほえるものがあった。
「海氷竜がいるからですよ」
 コウタ・クロイがしゃべるときはいつもタイミングよく竜がほえた。
「こ、これはこれは……」
「しょ、正直驚きましたわ」
「な、なんで」
 激しく動揺して、一人が気づく。
「竜の保持は世界的に禁止されています。海賊風情(ふぜい)ならともかく、彼らが持っているのは違法では?」
 ミグナはロウトーゼの方を向いた。
「ああ、それは……」
「保持は禁止されているが、竜が私たちと一緒にいたいのならそれはちがう」
 彼が答えるのをさえぎり答えたのはコウタ・クロイである。
「そう、しゅ……」
「主観がヒトか竜で大きく違うものさ」
 また副船長が先に答えた。ロウトーゼの顔がいつもの笑顔から苦笑いになる。彼は少しムキになり、
「これはせ」
「世界憲法第十五条五節に書いてあるはずですよ」
 今度はロウトーゼが彼のほうを向くが、目を細めて口の端を吊り上げて笑っている彼をみたとたん、彼はあきらめた。
「なかなか、博識ですね」
「博識? 君たちが知らないのではないのかね?」
「そのようですね。勉強しておきます」
 そう言うとロウトーゼは海氷竜のほうを向いた。
「そろそろ、追いつかれますね」
「ロウトーゼ様は風使いですか」
 コウタ・クロイのそれは直感ではなく、情報量にあった。
 つまり、わかってていったのだ。
「それで、どれくらいで追いつかれそうですか?」
「そうですね」
 彼は風を感じて、察し、
「乗客が乗り込むぎりぎりくらいには」
 と、答えた。
「ふむ。ぎりぎりか」
「はい。ただ……」
「ただ?」
 少しの間、聞こえるのは騒ぎ立てながら乗り込む乗客の声しか聞こえなかった。
 そして……
「彼らの 戦い(バトル) には間に合いません」
 と、ロウトーゼ・カースクレイクが答えたのと同時に、二つのけたたましい鳴き声とともに小船を激しく揺らし、二匹の竜が向かい合った。



「ゲギャアアァァァ」
「ボオオォォォォオオ」
 彼らはどうやら、会話をしているようだ。
「ゲギャアアァァァ」
「ボオオォォオオォォ」
 目つきを鋭くしているのを見る限り、温和な会話ではないらしい。
「ゲギャギャギャオオ」
「ボォオブォォオアァ」
 それではもう一度最初から、鳴き声調ではなく、しゃべり声調で聞いてみましょう。
 


「海氷竜たぁ、珍しい竜にあったものだな」
「そのせりふそっくり返してやるぜ、海炎竜。海にいるくせに炎もちとはな」
 お互い、はじめから会話に気を使うということはしなかった。
「で、何で貴様が海賊船なんかにいるんだ?」
「じゃあ、今度は 火熨斗(ひのし) つけててめぇに返してやるぜ。あんな窮屈な煙突に首突っ込んで蒸気船のまねたぁ、信じられねぇ以前に気でも触れたか?」
 第三者の怒りのために吼えているという見解はあながち間違えてはいなかった。
「うるせぇな。そんなに聞きてぇのか?」
「別に聞きたくねぇよ。足止めして置けといわれただけさ、逃げられねぇようにな」
「で、俺が出てきたわけだ」
「ま、そゆこと」
 二匹はにらみ合い、少し時間を置く。
「ただこの船の先頭に立って足止めしておくのは暇でしょうがないと思ってたんだ」
「やるんだな?」
「やるさ」
 二人が戦いの合図を示すようにもう一度、大きく吼えた。
 吼えると同時に波が立ち、小船を揺らした。
 海氷竜は視線をその小船に移し、泣きそうな子供、あるいはもう泣いている子供にいやでも気がついた。
「なぁ」
 戦う前にもう一度彼にしゃべりかけようとする行為は、どうやら相手には通じず、突然自分の長い首が痛んだと思うと、海が天井に現れた。
 海炎竜が海氷竜を投げ飛ばしたのだ。今まで自分がいたところには青い波、白い波がまるで木の年輪のように現れ、それが小船にあたるたびに大きく揺れていた。
 彼はそれを見て激しく顔をゆがめ、叫び声を散らした。
 気に入っているヒト、もしくは物が傷つけられるのを見逃すほど彼は竜ができているわけではなかった。
 海氷竜は海に体が浸かっていない状況であるにもかかわらず、海炎竜に攻撃を仕掛けようと口を大きく開けようとしたが、ふと、彼は相手がアルカベルノ号の付近にいないことに気づいた。彼の動いたと思われる波の軌跡を追うと自分の常に少し先を泳いでいた。
 彼は海に着水し態勢と建て直し、まじまじと彼を見た。そして、笑い、
「おまえ、なかなかいいやつだろ?」
 と、表情をまたにらみ顔に戻した。
 海炎竜はまず海賊船を見て、そしてそれがついでであるかのようにアルカベルノ号を見た。
「なぁに言ってんだ、海氷竜? 俺はただ自分の戦いやすい状況に運んだだけだぜ? 狭いところでやるのがキライなんだよ」
 しばしば二人は何も言わなかった。
 そして……
 ボオオォォォオオオォォ
「オーケー!! その戦法にはまってやるぜ、海炎竜!!」
 その叫びはこれ以上ない高笑いに聞こえた。
 すると。
 ゲギャアァアァァアアア
「フフ。後悔するなよ、海氷竜!!」
 二つの離れた船まで、二つの大きな首長竜の声が絡み合って届き、二匹の 戦い(バトル) が始まった。


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 こんにちは、Barovsです。
 はい、ついに戦いを始めちゃいました。
 戦ったといっても、ヒト同士ではありません。
 竜同士です。
 こちら、ただここで切りたいだけに次も連続で更新しました。
 ご都合主義で、何も考えなく行動してすみませんでした。
 そんなわけで次をどうぞ。


 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説
博識:ものしりやさん。
火熨斗(ひのし):炭火などをいれて、衣類などのしわを伸ばすもの。アイロンのことです。つまり、会話の中の意味はもらった言葉をしわを伸ばし、きれいにして返してやるよ。という感じでとらえてください。

 

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