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BOOKV.C


「ふぅ、食べた食べた」
「ご馳走様でした」
「うん。おいしかった」
 三人は給仕のありがとうございますという言葉に会釈で答え、お皿を片付けるのを見守った。
 ロウトーゼ・カースクレイクの部屋はすぐに修理された。その間ミグナ・ハーティコートとリコ・キリワタは迷惑になるほど修理人に謝り続けた。
 自分たちが器物を破損し、船の従業員に迷惑をかけたという事実にはロウトーゼに直接自分たちの部屋に来て指摘されるまで全く気がつかなかった。
「あの、なんと言って謝ればいいのか」
 彼女は蒼い目を下に向け、謝った。
「何でそんなにおっちょこちょいなのかねぇ?」
 リコの言葉にはすごく腹が立つが、
「あ、あなたに言われたくありません」
 ロウトーゼに対してミグナは今はこれしか言えなかった。
 なにせ彼女はこれでもかというほど謝った後、弁償として自分の財布に入っていたお金をそっくりそのまま渡してしまった。船にいるうちは一文無しなのだ。
「あなただって、そのどうしようもない怪力を少しは制御できるようにしてはどうなんです?」
「うっ……」
 彼女にそういわれてリコは思わず、飲みかけの水をもう少しでこぼしそうになった。
 リコは同じようにこれでもかというほど謝った後、彼女もいくらか弁償のためにお金を払った。そこまではよかったのだが……。
「まさか、直そうとして逆に壊してしまうとはねぇ」
「た、隊長ぉ」
 ロウトーゼはゆっくりと水を飲み、彼女は哀れんでくれといわんばかりの声ですがろうとした。
「それも、ドアを三枚も」
「…………」
 ミグナの付け足しに、彼女は何も言えなかった。
 そう、彼女はそのあと手伝うと言い出したのだ。従業員は丁寧にお断りしたのだが、彼女はそれを聞き入れず手伝い始めた。彼女は責任を感じ、張り切っていたのがいけなかった。
 思いあまって、直そうとしたドアを三枚ほど壊し、ベッドを戻そうとしたらベッドの足を折ってしまった。後もう一つその三枚と同じようにドアを二つに割っていたら、ここに寝る人はさぞかし寒いおもいをする羽目になるところだった。
「以後気をつけます」
 彼女も今日に限っては素直でおとなしく、ミグナに逆らおうとはしなかった。
「それじゃ、そろそろ出ようか」
「はい」
「先に表で待っていてくれるかい?」
「分かりました」
 二人はそういうとパプリコを出て行った。しかし、彼女たちは絶対に彼をおいて部屋に戻ることはしないだろう。出口で待っているのは確実だった。
 ロウトーゼは一口コーヒーを口にして、左手を上げるとすぐに給仕が彼の前にやってきた。
「なにか?」
「あそこにいる彼だけど」
「はい」
 そこには少しかたい表情で立ち回り、皿をさげている少年がいた。
「さっきはポーターとしてみたんだが……」
 ロウトーゼは視線を彼に注がせたまま質問した。
「ああ、彼は見習いで方々出ているんですよ」
「そう……名前は?」
(わたくし) はミッシェル・クラッツと申します」
「そう。彼は?」
「彼はコンタ・ロ……」
 続きを言わなかったのは、
「失礼しました、彼は少し苗字が長くて、その……」
 どうやら苗字までは覚えていないようだった。
「ん、そう。コンタ君ね」
「すみません」
「いや、十分さ。ありがとう」
 そう言って彼が席をはずそうとしたとき、
「ところで兄さん」
 ミッシェルが突然口調を変えてしゃべりだした。
「ずいぶん対称的な美人と一緒にいるな。今夜空いているほうを貸す気はないか?」
 ロウトーゼは動じることはなく逆に思い出したように、
「それは少し無理かなぁ。でも、ありがとう」
 笑って見せた。それから、何も言うことなく彼はパプリコをでた。
 ロウトーゼの考えたとおり、彼女達二人はしっかりと重心を真ん中にして、無言で立っていた。
「もう少し、リラックスして待っていてかまわないのに……」
「いえ、そういうわけには」
「右に同じく」
「これは、敬意であり礼儀ですから」
「分かったから、もういいよ」
 彼女たちが彼を尊敬しているわけは二つある。一つは彼の実戦での能力。もう一つはそれを自慢することなくたおやかなところにあった。
 逆に敬語を使わせないのが短所なのだが。
「じゃあ、戻ろうか」
「「はい」」
 部屋に戻る際、ロウトーゼ・カースクレイクはミグナ・ハーティコートとリコ・キリワタにしゃべりかけた。
「そうそう、コイントスをしてくれないかい?」
「え?」
「なぜですか?」
 二人は彼の後ろについているので、後ろからハテナで返って来た。
「さっきパプリコで、聞かれて思い出したんだよ」と、とてもにこやかに彼は答えた。「まけたほうの部屋に寝ようと思ってね」




CHAPTER W
A Valid Reason
    ロク王国の参番隊隊員と旅キツネ




 正規の乗組員からコンタは寝る部屋を用意され、彼はそこに向かった。
「ここがおまえの寝るところだ」
 その部屋はいわゆる共同部屋でしかも一部屋に二階建てベッドが二つ、つまり一部屋四人寝れるというものだった。
 そのベッドが決してさめることのないホットベッドといわれているのは、立ち代り寝床を共有しているところからそういわれている。
 この時点では当然四人が寝ていて、ベッドは空いていなかった。
『そっか、ボクだけ突然入っていたんだもんなぁ』
 そして、彼らを見て自分が五人目で、寝る場所が無いと勘違いし、
「じゃあ、誰かをお……」
「それじゃあ、おやすみなさい」
 そういって、その部屋の天井にあるパイプ管に飛び乗り、洗濯物を干すようにだらりと垂れて寝ても、コンタは疑問に思わなかった。
「お、おい!」
「くかー」
 彼はとても寝つきが良かった。
 むぎゅ。
 しかし、およそ十八秒後に鼻と口をふさがれた彼は起きざるを得なかった。
「誰かを起こしてベッドで寝ろ!」
「ふ、ふぁい。う〜鼻がいたぁい」
「全く、一体なんて格好で寝ようとしたんだ」
 あきれ顔の乗組員は二人を起こし,寝る準備をした。
「すみません。あんなふうに寝るときもあるんで」
「あぁそぉ」
 もう、コンタとは一秒も付き合ってはいたくないらしく、
「明日、起こしてやるまで寝てろ」
 無理矢理話を打ち切った。
「あ、はい。おやすみなさい」
 もう返事は返ってこなかった。


 ヴェルトリオール入港までロロック島から約一週間必要である。
 おおよそその三日間、彼女ミグナ・ハーティコートは寝不足で過ごさなくてはならなかった。
 それは彼女の部屋にロウトーゼ・カースクレイクが寝ているのが原因であるのは確かなのだが。
 別に緊張しているためではなく、彼女が彼の部屋で寝ていること――花瓶は枕にすることはなかった――に小さい問題があった。
 ドアはなおっていたものの、ベッドの足が一つ折れ、どうにも不安定にあることだった。
 そして、どうやら四日目からは 修繕(しゅうぜん) されぐっすりとねれそうだ。
 ロウトーゼのほうはその三日間、歩いて目で追う程度にコンタを探していたがいっこうに見つかる気配がなかった。
  能力(,,) を使って探してもよかったのだが、客船のほとんどは階層が多く、的確に居所を探し当てるのは今までの経験上難しかった。
 ふぅとため息をついてどうやら、ロウトーゼは諦めることにした。
 甲板を覗いても、パプリコに行っても、各階の客室廊下を歩いても見つからなかったためだ。
 別にそこまでして会いたいわけでもないのに、つい歩いて探してしまうのはなぜだろうかと自分でもとても不思議だった。
 外からぐるりと一周できるデッキを歩き、立ち止まって海を眺めながらつい言葉に出してしまった。
「どこにいるのかな、コンタ君」
「はい。何ですか?」
「!!」
 突然さかさまに顔を出したコンタ・ロスノフスキは彼の視界に入り、驚かせた。
「あ、し、失礼しました」
と、言葉遣いを正し、彼は身軽にそこからデッキに戻って、ロウトーゼの前につま先から着地した。
「失礼しました。部屋の窓拭きをしていたもので。それで、何か御用ですか?」
 コンタは特に自分の名前を知っていたことに疑問は持たなかった。
「す、少し待っててくれるかな」
「はぁ」
 彼は驚きで激しく動いている心臓を深呼吸で落ち着かせた。
「あの、どうかなさいましたか?」
 もう一度深呼吸をした。
「い、いや、君が突然出てきたから驚いたんだよ」
「大変失礼しました」
「いやいや、大丈夫。こっちこそ仕事の邪魔して悪かったね」
「いえ、そんなことは」
「まあ、どうしてもお礼が言いたくてね」
 きょとんとコンタは彼を見つめて、
「お礼、ですか?」
「そう、お礼」
 そういって彼はコンタに顔を近付け、微笑んだ。
 たいてい長所、短所というのは自分よりも相手のほうがよく気づく。
 ロウトーゼの場合もそれにあたり、十代後半の彼に笑顔どれだけの効力があるかを自分で気づくことはなかった。
 あなたの笑顔にはかなわないわ。
 あるいは、おまえは男でも誘惑する気か?
 と、言われ、初めて自分の長所がこの顔にあることを知った。
 もちろん自分の長所を生かさない彼ではなかったので、いつでも自分を有利な展開へ運べるようにしたくて、鏡を見て練習をした。
 しかし、どうやらそんな場合には自然に出るらしく実際のところ練習する必要がなかった。
「私、何かお役に立ちましたか?」
「覚えていないのかい? まあ、とりあえず。この間は彼女たちの喧嘩を止めてくれてありがとう」 
「喧嘩? あ、あの時チップをたくさんくれた……」
「思い出してくれたかい?」
「はい」
 ロウトーゼはコンタから顔を離すと、彼と同じように目を瞑り、
「彼女達ねぇ、練習の次くらいにけんかが好きなんだけどね、止めるのがなかなか難しいんだ」
「練習の、次くらいに。ですか?」
 また彼は少し難しい顔をした。
「ん、ああ、私はロク国の王宮で働いているんだよ」
「というと、兵隊ですか?」
「うん、そう」
「あ、あの、喧嘩を止めたというのは?」
「文字通りの意味だけど?」
 コンタは友達同士の喧嘩を止めたことを謝ったが、彼にとってはありがたいことを説明した。
 その後、ロウトーゼから 柔和(にゅうわ) に話しても、コンタは敬語をなくすことはなかったが、十五歳で無一文のまま出かけさせるとは、勇気ある両親だと彼は思った。
「それで、ヴェルトリオールで何をするんだい?」
「いえ、べつに」
「べつに?」
「はい。行き先は決めてないんですけど、分かる言葉が二つしかないんで、とりあえずロク国かポルフォール国にいこうかと」
「とりあえず?」
「そしたらきっと他の国にいける方法も見つかるかとおもうので」
「他の国にいける方法?」
「はい」
 コンタは質問に答えている間、相手が終始考えているようだったので何がそうさせるのか不思議でならなかった。もしかして、また粗相をしてしまったのではないかと思った。
「ええと、どこかにお使いに行くわけじゃないのかい?」
「いえ、ちがいます」
 ロウトーゼは少し考え、この場合もっともな答えを見つけた。
「それじゃあもしかして、旅?」
「はい」
 もちろん彼は二つ返事だった。
「あの、最近できたから知らない人も多いけど……」
 そのまま彼は話を続けようとしたが、
「やっぱりだ……」
 コンタは海に視線をうつし、ぼやいた。
 ロウトーゼも彼が向いた方向に視線をうつしたそのとき、隣の少年はもう一度天井にぶら下がり外に出て、蹴上がって上に登っていった。
「ちょっと、コンタ君?」
 と、外を見上げ言ったときにはもう、船の天辺まで登っていた。
「へぇ。なかなかの体術を…」
 ひゅっと切れるような風が一瞬彼の頬を通り過ぎると、彼も気づいた。
 コンタと同じ方角を見て、
「あそこにある黒い点が」右手を額につけて目を細め「なぜあれが海賊船だと分かるんだ?」







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 こんにちは、Barovsです。
 色々と改装して、こんな感じに落ち着きました。
 さて、次の話題へ進んだのですが、ここで初めてバトルシーンをやりたいと思います。
 もともと、ファンタジーとバトルを乗せる気だったのですが、なかなか書く機会がなく、載る事がなかったのです。
 ですが今回書くにいたりました。
 面白くかけるように頑張ります。
 それではまた、私に書く機会があるのでしたら。

 乱筆多謝

 作中ちょこっと解説
たおやか:これはよく、女性の人によく使われるもので、態度や性格が上品でおしとやかなことを言います。

柔和(にゅうわ):これも、上とおんなじ意味です使い分けたのは、そんなに深く考えていないからです。
 

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