お昼休みが終わり、クナとガトーレ・ゴールコートは戻ってきた。そのまま午後の授業にはいって今日の学校の授業は全て終わった。
「ガトーレ、今日はどうする?」
ガトーレをいつも取り巻いている男の子たちが彼に話しかけてきた。
「どっかいくか?」
「……」
色々言ってきたが彼は特に反応をするそぶりを見せなかった。
「ガトーレ?」
「……クナの家に行く」
「え?」
「なんで?」
「お昼に黙ってあいつを追って、勝ったんじゃなかったのか?」
「あんな表情して戻ってきたぞ?」
表情という言葉に彼はいやでも反応をした。
「おまえらも来い」
そういわれた二人は顔を見合わせて疑問符を浮かべた。
「これ以上恥をかきたくなかったらな」
疑問符は四つになった。
メトカーフ夫妻の家の前に来てもその疑問符は消えることはなかった。ガトーレ・ゴールコートはココに来るまでの間何も話さなかったし、話しかけようとしても答える雰囲気がなかったのでこちらからも別に話しかけようとはしなかった。
ガトーレは玄関の前に立ち無言で少し緊張しながらも右手をノッカーにふれて、
コンコンコン
とたたいた。
ガチャリ
「どちら……ガトーレ」
「よ」
クナとガトーレは目を合わせた。
「ああクナ、ありがとう。隣に座りなさい。さあ、三人とも遠慮せずにどうぞ」
ソファーに座りながらガトーレたち三人はミセス・メトカーフとクナ、二人と向かい合った。ガトーレは二人の真ん中に座り、両隣の二人はぎこちなく紅茶に砂糖やミルクをいれたりして、無言のまま時間の経過を待っていた。二人は何故いつもいじめている――この二人に関してはいつも彼女に勝てなかったが――クナの家にわざわざ行かなくてはならないのか。という疑問はメトカーフ家の中に入っても以前と分からなかった。
「それで今日は何の御用かしら、ええっと、ミスター・ガトーレ?」
「何で、俺の名前を?」
自分で名前を言った覚えはなかったし、クナが普段自分のことを話題にしているとも思わなかった。
「歳をとると、玄関のやり取りも自然ときこえてくるのですよ」
ガトーレはゴールコート家の家訓"自分が勝てないと悟ったら、自分にできる最高の敬意を相手に示しなさい。"を思い出さずに入られなかった。彼はこの家に来てミセス・メトカーフをはじめて見た。そして、彼女はヒトであるのにガトーレは何一つ自分が勝てないことを悟った
「は、始めに言っておきますが、オ、ボクは敬語がうまく使えません」
少しつっかえながらガトーレは話した。
「ふふ、子供に言葉遣い教えるのは人種の偏見を教えるのと違って少し難しいですからね、それに子供の言葉遣いには人との壁を壊してくれる面もありますから、どちらかといえば好きなほうよ。あら、ごめんなさい、私はお話が大好きなもので。それで私に何か御用?」
「実は……」
ガトーレが話を始めようとしたとき、
「あ、そうだ、すっかり忘れていたわ、クナ?」
思い出したように、彼女はクナにしゃべりかけた。
「え、はい」
突然、自分に話しかけられた彼女は少し驚いて返事をした。
「私がこれから言うものを買ってきてくれるかしら?」
彼女はおもむろにリストを口走った。それを聞いていた三人はミセス・メトカーフが言ったことをそっくりそのままクナがレシピに近いリストを復唱したのを見て、驚かずにはいられなかった。
クナが買い物に出かけると、
「これで、少しは話しやすくなったかな?」
とミセス・メトカーフは促した。
そして、ガトーレが少しの無言の後、話を切り出した。
「今日、昼休みにクナと話をしました」
「そう」
「アイツはどうして苗字をもらわないことをとても悲しんでいるようにみえました」
「あの子が自分で選んだのに、ということね?」
「はい」
「クナは当時のことがよほど傷になってしまったのね。それはあの子を理解しきれなかった私たちのせいだわ」続けて「クナは自分で考えることが大好きなことは、わかるかしら?」
「勉強が好きなことはわかります」
「うちのクナはとても優秀ですからね。そう、自分で考えすぎてしまうのがあの子のいけないところだわ。あの子はどれくらい悩んだかしら、半年、一年?」
ミセス・メトカーフは少し悲しそうだった。
「三ヶ月とクナは言ってました」
「そう、そんな短い期間で限界だったの。それでは、ちょうどそのとき三ヶ月たった夜にクナが初めてべそをかきながら私たちのところに来たときのことを話しましょうか……」
ぐすっ、ぐすっ
「どうしたの?」
「……ヴァージニアおばさまぁ、ナサニエルおじさまぁ」
クナが泣いているのを見たのはこれが初めてではないが、彼女が夜鳴きをしなかったのは保護者にとって便利な特徴を持った子供だった。
「どうしたんだ、こんな夜遅くに」
メトカーフ夫妻の寝室にノックもせずにはいってくる自体、彼女にとっては珍しいことだった。クナは一対の目を手で押さえているはずなのに、ゆっくりとミセス・メトカーフのベッドに近づき彼女の上半身に抱きついた。
「レディは人前で涙を流してはいけませんよ」
優しい笑顔でいくらか戸惑っていてもミセス・メトカーフは自分が教育者ということ忘れなかった。
「どうして、私には苗字がないの?」
クナは単刀直入にミセス・メトカーフにたずねた。
「……」
少女が普段見せる冷静という表情は今夜に限りは見当たらず、子供の泣き顔だった。
「これから、クナの質問に答える前にいくつか質問をします」
「……はい」
「あなたが泣いている原因は今日、いじめられたからですか?」
「いいえ」
「誰かに泣き顔を見られましたか?」
「ヴァージニアおばさまとナサニエルおじさま以外には見られていません」
「これから出される疑問にあなたは答えを出すことができますか?」
「おばさまが私の疑問に答えてくれれば、出さないわけにはいけません」
「……わかりました、それでは話しましょう」
ヴァージニア・メトカーフはクナを自分のベッドへ促し、自分のそばへ置くと彼女の黒い髪をなでだした。
「貴女の黒髪と私たちのブロンドの髪――もう白髪のほうが大半を占めているけど――が示しているとおり私たちとは全く血がつながっていません。あなたは生まれてきてすぐ私たちにあずけられました。貴女の母親は貴女と同じ黒い髪の持ち主で、当時ひどく弱り、そしてひどい怪我をしていました。とにかく私たちは彼女を部屋の中へいれて、傷の手当てをし、そして事情を聞こうとしましたが彼女は自分の名前も答えずただ、ありがとうといって出て行ってしまいました」
クナは何も答えず、それがおそらく父親譲りであるつりあがった凛々しい目をヴァージニアに向けていた。
「すぐにナサニエルが追いかけようとしたんですが……」
彼に背を向ける格好で彼女は寝ているたので、
「なにぶんナサニエルは身体も頑固だったもので」
といって、これ見よがしに彼女は苦笑していた。クナも笑った。
「身体がかたいっていいたいのか?」
彼女には分からなかったが彼は顔をしかめていたに違いなかった。
「歳をとっているっていっているのよ、私たちそろそろ金婚式よ?」
「全く、話をそらさずに続きをいったらどうなんだ?」
「ええ、そうでしたね」
少し、空気が和らいでベッドのぬくもりを感じることができた。
「その翌朝、スーノ川で一人の若いの猫の獣人女性の死体が見つかりました」
「!!」
ヴァージニアはそのまま一呼吸するまもなくさらりと言い放ち、クナは目を見開いた。
「……間違いなく前の日の夜、クナを連れてきた女性でした」
クナは自分の心臓が激しく脈を打っているのと目の焦点が合っていないのに気がつかなかった。
クナの髪と、黒い獣人特有の耳をなでながら、
「そして、残念ながらその人があなたの母親ではないという証拠は無く、あったのはその人の身体から発見されたへその緒でした。赤ん坊の死体は一緒には見つからなかったのも覚えています。私たちは子供には恵まれませんでしたがあずけられた子供に不自然に結ばれたへその緒がついていれば、その女性の産んだものだと分かります」
ヴァージニアはクナをそっと両手で抱きこむように引き寄せ、相手の頬と自分の頬を擦り付けた。
「私たちを父、母と呼ばせなかったのは、もし今日これを話して嫌われたときにお互いに深い傷を負わないようにするためです。私たちはクナに嫌われることで深い傷を負わないことはありませんから。でも、覚えておいてください。私たちはあなたに嫌われたとしても、私たちはあなたを愛しているということをやめはしません。そして、私たちの苗字をあなたに与えなかったのは、クナという名前をつけたことに誇りはもてますが、どうしても、私たちの苗字をつけるのにはおこがましいと思ったのです。ですから今日という日がきて、これをはなした後あなたが私たちの苗字を名乗りたいかどうか。それをクナに問いたいのです」
彼女はそれだけ言うと口を閉ざし、頬をはなして、今度は、彼女がクナをじっと見た。ナサニエルは寝たふりをしてそっぽを向いていた。
しばらく夜の沈黙を3人は感じ、クナが彼女に目の焦点をしっかりと合わせ静かに言葉を発した。
「……ごめんなさい。私は、二人の苗字を名乗りません。」
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こんにちは、Barovsです。
一ヶ月2本出せればよいほうでしょうか。
最近めっぽう寒くなり、身体が動かなくなってきています。
暑いのは全然平気なのですが、寒いとなるともう、ダメダメです。
どれくらいダメかって言うと・・・・
夜12に寝て、昼の12時に寝る人くらいダメダメな感じです。
そうやっている人たちになんか言われちゃいそうだなぁ
気にしていたらごめんなさい。
さて、ヒロインが出てきて、一応次で生い立ちは一時終わりです。
大体、出会うまではこんな感じでいこうかと考えています。
かわりばんこってコトです。
少女の設定として考えているのは・・・秘密ということで勘弁してください。
では、そろそろ
もし、私にやる気があればまた次回・・・
乱筆多謝
作中ちょこっと解説
ノッカー:うーんと、どう説明すればいいかなぁ。昔の西洋映画とかで、ドアに張り付いている金属のわっかです。ライオンの形をしたヤツがそのリングをかんでいるような感じで、それをドアに”カツカツ”とたたいてやるあれです。
おこがましい:これは”差し出がましい”。ようは”調子に乗っている”、とか、”生意気”という意味です。