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BOOKV.A


 少女は六歳になったときに学校に入学することになった。
「……どういうことですか?」
 ミスト・カランはメトカーフ夫妻の提示した少女に関する書類を見て発言した。
「なにか?」
「いえ、何かというより……」もう一度書類を見て「どうして、あなた方のお子さんに苗字が無いんですか?」
「これでいいんですよ」
 疑問に答えたのは彼の正面にいたメトカーフ夫妻だった。
「いえ、そうではなく。失礼な発言をお許しいただきたい。この子があなた方の娘ではないことはわかります」
「そうですよ。私たちは保護者です」にべも無く答えた。
「でしたら、ミセス・メトカーフ。保護者であるのでしたら……」
「別に保護者の苗字をつけるという法律はありませんよ?」ミストの発言をさえぎった。
「ですが……このようにかかれる事をこの子はしっているのですか? 少なくとも彼女はあなた方の子であると信じて疑っていませんよ、ミスター・メトカーフ?」
「いいえ、知りません」と低い声「心配せずとも、私たちはいずれこれを追及されたとき、答える覚悟はできていますよ」
「……これが原因でいじめられることになってもですか?」
 ミストはゆっくり声に出した。
「それを事前に防ぐのは私たちの仕事ではないはずですよ、ミスター・ミスト?」
「何より、メトカーフの名をつけるつけないは私たちではなく、あの子なのです」メトカーフ夫妻はお互いに向き合い微笑むと「そして、つけたらつけたで私たちにこれ以上の幸福はありません」
ミスター・メトカーフが言った。
 ………ふうぅ
「分かりました。あなた方夫妻の娘ですから、心配は要らないでしょう。昔から変りませんね、お二人の強情さは」
「強情とは年寄りに使う言葉ではないな。全く、ミストが先生になってるとは思わなかったよ」
「でも、一番性に合ってるかもしれませんね。こういう風にやさしすぎるところは」
「「顔に似合わず」」
 メトカーフ夫妻は声を揃えた。
 ミスト・カランが独身なのはこの町の小さななぞだった。彼の鋭い目に男は気圧され、女は魅かれる。そういう目の持ち主だった。筋肉はしまり、身長は高く、赤い髪は燃えるようだ。しかし、学校に通わせている生徒の保護者は「ミスト先生はかっこいいけど、コワイから近づいちゃだめよ」というものが多く、ミストはどう反応していいか複雑な気分だった。やはりカッコイイといってもコワイのだろう。でも、学校では人気者だ。
「勘弁してくださいよぉ。この顔、結構コンプレックスなんですから」
「贅沢な悩みだな」
「まあまあ」
 メトカーフ夫人が二人を落ち着かせ、
「それでは、お願いします」
 それを聞いて、二人ともおとなしくなり
「はい。わかりました」
「それでは、頼みます。ミスター・ミスト・カラン」
「はい」
 三人は仕切りなおして挨拶をすませ、ドアを開けて廊下に出るとその少女がぽつんといすに座って待っていた。彼女は三人を見るとメトカーフ夫妻に近づいて、
「もう終わり?」
 と何がそんなに楽しいのだろうという笑顔で質問してきた。
「ああ、終わったよ」
「あしたから、このガッコウに通うの?」
「そうだよ」
「ガッコウって何するトコ?」
 彼女は素直に聞いてきて、メトカーフとミストはこの質問に少し戸惑った。
 自分が抱き上げられない歳になっているのが少し悔やまれ、そのかわりにミセス・メトカーフは少女の黒髪をなで、
「それを自分で見つける場所なのよ。まだわからないかもしれないけど、ここでは大切なことが学べるわ。好きなことを学べないかもしれないけど、がんばるのよ?」
 少し戸惑ったような顔をするがすぐに元気になり、
「うん!」とうなずいた。
 ミセス・メトカーフは少女の手をつなぎ、
「それじゃかえりましょうか、クナ?」
 身長差のせいか不釣合いだが、大人と子供のそれに違和感は感じられなかった。


CHAPTER THREE
 A Sane Solution
           私たちの娘


「それでは転校生を紹介する」
 ミスト・カランの声がクラスに響いた。
「入りなさい」
 右にあるドアに、何対もの目が向けられた。
 ガララ
 少女は教卓の前でとまり、黒板に背を向けた。
「それでは自己紹介をしてくれるかな?」
「はい」
 ミストは短すぎる彼女の名前を黒板に書いた。
「クナです」
 彼女はそれだけ言った。
 生徒たちは他にどんな紹介があるかと期待して彼女を見守ったがそれ以上彼女の口から出ることはなかった。
「……さすがに恥ずかしそうだから、私が代わりに紹介しよう。彼女は」彼にしてみれば当たり前なのだが、大人の視点から見ると違和感がある「クナ ちゃん(・・・) といいます。このクラスの中にも獣人がいますが、彼女は猫の獣人です。少し珍しく見えるのは耳と尻尾を隠していないからでしょう。皆さん、仲良くしてあげてください」
 生徒は他に違和感が感じられるのは分かっていたのだが、それが何かは分からなかった。
「それじゃあ席は……」
 彼は昨日のうちから用意しておいた教卓の隣においてある机をトントンと出席簿でたたきながら「ここの列とここの列が五列しかないから……うん。この真ん中の列にしようか」
 ミストは机と椅子を――六歳が座る椅子は片手で持てた。――もって、そこの列の最後におき、クナをそこに座らせた
「それでは算法の勉強からですね。あ、ナキル君、紙とペンをクナちゃんに貸してあげてください。ありがとう。それでははじめましょうか」
 休み時間に入るとことのほかクラスにぎこちなさがあった。勇気を振り絞って声をかけようとするが、やはり一番最初というのは子供たちは緊張した。
「え、えと、ボク、ナキル・マクストン。……よろしく」
 さっきの授業のときに紙とペンを貸してくれた男の子が勇気を出して、自己紹介した。
「私、クナ。あ、あの」少し顔を赤らめて「さ、さっきはありがとう。それと……よ、よろしく。」
 すると、お互いもう恥ずかしさは頂点を過ぎ、ぎこちなさはあるものの笑いあった。
 こういう場合、それを過ぎてしまうとプツンとクラスの緊張が解け、まるで新しい風が来たみたいにみんながワッと押し寄せてきてそれぞれ自己紹介をしだした。

 彼女はすんなりクラスになじめたように見えたが、そうもいかなかった。これはミスト・カランも想定外の出来事だった。クナは年を重ねるごとに先生はおろか生徒にもそれは広まり始めていた。クナは美術を除いてほぼ全ての教科で最優秀の成績を修めていた。七年制である第五学年にあがるころには、友達が全く近づかないわけではないが、女性には少ない一匹狼になろうとしていた。
 ミスト・カランはこの状態を何とかしたかった。もうすでに新しい学年になったのに彼女をもう一学年あげなければならない事実が訪れている以上、 彼女に"これからどうしたいか"聞かずにはいられなかった。
「ちょっといいかな、クナちゃん」
「なんですか?」
 彼は校長の推薦でもう一学年あがることができることを話した。
「……私、進級したくはありません」
「……そう、わかった」
「このクラス好きだもん」
 この言葉にミストはもう一人誰かに聞かなければならなかった。


「え、クナちゃんそんなに頭良かったんですか?」
 いいとは思ってたけど。と同じクラスの子たちは話していた。
 放課後になって、ミストはクナが一匹狼になろうとするのをくいとめているレンス・デクスターとロニー・フレハートの二人の女の子に静かに話し始めた。
「あのね……先生が言うのもおかしいんだけど」少し頭をかいて「クナちゃんって嫌われてない?」
 その子達二人はお互いを見つめあった。そしてミストのほうを向き
「たぶん。でも、それほどじゃないかも……」とロニーは彼に不思議そうな顔をして、
「それほどじゃない?」
「「いまはねー」」
 子供たちは向き合って、大きく声を揃えて言った。

 新しい学年になったときの登校中はクラス替えというものがないのに、ほとんどの生徒たちはみんな顔をほころばせていた。
「……」クナはそのほとんどの生徒の仲には、どう見てもはいってはいなかった。
「やめてよ!」
「しっぽだしっぽぉ」
 みつあみされたきれいな黒い髪を引っ張られている女の子と引っ張っている男の子がいた。
 男の子の方はガトーレ・ゴールコート。クナのクラスでも、そして同じ学年でも有名ないじめっ子だ。レンス・デクスターは黒髪を最近はみつあみにすることを好んでいつもしてきていた。クナはその二人とその周りではやし立てる子、そしてかばおうとしてもかばえない子たちの集団と距離を縮めていた。そしてその集団に手が届くほど近づくと両手を前に出した。
 ぐぃ……ギュ……ぶん!
 割り込み、ほどき、髪をつかんでいた手を放り投げた。
「きゃっ!」
「いてっ!」
 クナはレンスのほうを少し見た後。ガトーレのほうを向き、
「人の嫌がることをしてはいけないとミスト先生がいつもいってるじゃない」
 学校の暮らしで彼女は耳と尻尾を隠すことを覚えていた。
「全く、ガトーレが去年覚えたことは食べたら太るということくらいじゃないの?」
「なんだと?」彼は核心を突くことを言われ、カチンときた。事実最近太り始めたのは本当だった。
 彼はクナのむなぐらをつかんで力を見せびらかすように上に力を入れた。このときクナは宙に浮いていて、どう見ても殴られるのは彼女に見えた。 「ガトーレがライオンの獣人でも私は負けないわ。」
 すでにガトーレの眼光は鋭く、下半身を除けばライオンそのものになっていた。
「でも、俺は負かされたことはないぜ? それにクナは一度も殴ったことはないかもしれないが、今日はどうかな?」
「どういうこと?」クナは少し冷静さを忘れ聞き返した。するとガトーレは得意のいじめ顔で珍しく彼女の質問に素直に答えだした。
「おまえ、メトカーフたちの本当の孫じゃないんだろ?」
 ……ドクン……
「え?」
 周りの少年少女も反応を示した。
「周りはそれを話題に出さなかったが、残念だったな」
 ……ドクン……
「昨日母ちゃんたちが言ってたの聞いて、いつかは言おうとは思っていたんだ。クナは親に捨てられたってね」
「……」
「メトカーフの苗字をもらっていないってコトは、あの人たちにも嫌われてるんじゃないのか?」
 すると彼女はバタバタと足をバタつかせたので彼はパッと手を離し下におろしたが、彼女はうまく着地できず仰向けに足から砕けるように倒れた。そのとき彼女の、これもまたレンスに負けないくらい綺麗な長い黒髪に顔は隠された。
「どうだ、俺を殴る気になったか?」
「……」
 すごく短い時間だったが、この集団の中ではすごく長いように感じた。そして彼女は黙ったままで、ガトーレはこの通学途中で見える学校の時計を見ると、
「後ろからでもいいからな、先に行く。いくぞ」
 彼を取り巻く少年たちを引き連れて、先に学校に向かっていった。
 彼らの後を見向きもせず、今までただ黙っていたレンスたちがしゃがんでクナを立ち上がらせようとした。
「えと……私たちも学校に行こう?」
「……」
「助けられなくて……ごめんなさい」
「……ううん」クナは特に涙を流すわけでもなく、そしてレンスの手に引かれ立ち上がった。
 ポンポン
 クナがホコリを取り払うのをレンスは手伝った。そのあいだ、周りにいたレンスの友達は何もしゃべらず口も開かなかった。ただ、頭を下にさげていることをクナは見逃さなかった。
「……みんな、ごめんね」
「何で、クナちゃんが謝るのさ? ガトーレからたすけてくれたじゃん」その中の一人の少女が一人ぎこちなくも、クナの言葉に反応した。
「……ん、そうなんだけどね……」
 クナは倒れたときに一緒に地面に落ちたバッグを背負い――幸い、なかみはとびでていなかった。――ゆっくりその中の先頭に立って歩き出した。そして、彼女は確認するように一つ、質問した。
「みんなも、私の苗字がないの……気にしていたんだね」
 クナ以外の少女たちは口と同時に歩き出そうとする足も、動かなかった。


 ガトーレ・ゴールコート九歳は朝の出来事から約4時間後に自分が初めてうそをついたことに気がついた。それはクナたちが朝、クラスに入ってきて軽くはやし立てたときも、休み時間軽く小突いたときも別に意識もしなかった――そのときは あの(・・) 話題は口に出さなかったが、それは彼が唯一後に救われた点だった。
 昼休みにクナが友達とぎこちなさそうに、独りになりたそうなしぐさをみせて別れ、教室から出て行くのが見えた。ここの学校の給食はお弁当であり、学校で頼むか自家製か二つ選べた。
 ガトーレ・ゴールコートは彼女のあとを弁当も持たずに仲間を無視してクナを追いかけていった。クナは後姿を見る限り落ち込んだ姿は微塵もみせずに、階段を上って屋上へ向かっていった。彼は彼女が最後の階段を上った後をその下から眺め少し間をおいてから、その後についていった。屋上のドアを開けるのに少なからずガトーレは躊躇した。罪悪感は両親に怒られたときにいつも感じていたが同級生に感じたことは一度もなかった。おそらく、彼にとって言葉で言われる前に自分からそれに気づくことは今までなかった。そして、屋上のドアを開いた。
 屋上に出たガトーレは周りを囲っている柵にも注意はいったが視線をゆっくりと動かしクナを探した。屋上の真ん中あたりまで歩いてくるとクナがさっきまで死角であった場所に頭を下げ、ひざを抱えてボールのように丸くなっていることにいやでも気がついた。彼はゆっくりとクナに近づいていったが、そこで自分は別に何も話すことなんてないのに何故彼女を追いかけ、話しかけようとしているのか分からなかった。
「……なに、私をこてんぱんにする悪口でも思いついたの?」
 ガトーレ・ゴールコートは後悔した。今まで、いじめてきた事に悔いなんてものはなかった。これ見よがしにおおなきする少年少女たちの声や表情、かくまっている周りのその友人たち。それを見るのがたまらなく面白いことだった。彼はいつも勝利の中にいた。だから、クナが彼を見るために顔をゆっくりと上げ、涙は流してはいないのに悲しい瞳と表情をしているのには驚きというよりも、なぜか自分を責めたい気持ちに駆られた。
「あ、ああ、思いついたさ」
 だから、虚勢を張ることしかできなかった。
「わかった。じゃあ、お弁当食べおわったあとでいい?」その表情のままぎこちなく笑い「おいしく食べたいから」と彼女は言った。
「う、うん」
 何とか、虚勢が努めてばれない様にしたが今の彼には難しすぎた。そしていくらか余裕を取り戻すために十分時間が与えられることは彼にとって嬉しいことだった。
 しかし、クナはゆっくりと箸をつつき口に運んでいる間もその表情は変らなかった。
しばらく彼はそこに立っていると、どういうわけか自分が今日の出来事を振り返っているのに気がついた。何故たまらなくいやなのかを無意識のうちに探しているとき、不意に彼女がしゃべりかけてきた。
「ガトーレは頭がいいね」
「え?」
「私は自分の苗字がないことに気がついても、その答えにたどりつくまでに三ヶ月くらいかかったわ」続けて、「私、食べるの早くないから座れば?」と彼を促した。
 そういわれて、普段の彼なら聞きもしない彼女の言葉に素直に従った。
「……」
「……」
 彼女はまたもくもくとお弁当をついばみ、ガトーレはそれをなんとなくじっと見ていた。
「んで?」不意に彼が話しかけてきた。
「ん?」
「おまえ、理由はちゃんと分かったのか?」
「分かったって、私の苗字が無いってこと?」
「あ、ああ」
 そのときガトーレは何かに気づきそうだった。
「ふふ」また彼女は悲しそうにわらい、「変なこと聞くのね、私を泣かせようとした本人なのに」といってきた。
「……」
 ガトーレは黙ったままだ。
「私が今日傷ついたのは本当だけど、あなたに私を泣かせることなんてできないわ」
 彼女は箸をお弁当箱のふたに乗せ、少し元気になったように見えた。
 彼はそれに耐え切れないのも半分、原因を知りたいのも半分で、
「頭のいいヤツにも分かるように説明しろよ」
 ガトーレは自分にできる精一杯の皮肉を言ってみせた。



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 こんにちは、Barovsです。
 まずは、お久しぶりですといったほうが良かったでしょうね、それだけ間隔が開いていましたから。
 ともあれ、ヒロインの登場&三部です。
 彼女は黒い猫の獣人です。本当に私はこてこてで、もしかしたら皆さんがお考えどおりだったのかも。
  少し、子供の頃を振り返ってみましたがどうやら、私もいじめられていたようなのです。
 夕飯の席で親に少し尋ねていたときに知りました。でも、よく考えてみてもそのときのことは良くは覚えていないのです。
自分のことを良く考える時があるのですが、都合の悪いことは良く忘れるたちなので、そのために覚えていないようなのです。
いい正確だと自分でも思います。
では、この辺で失礼させていただきます。
もし、私にやる気があればまた次回・・・
この部は短く終わります。

乱筆多謝
作中ちょこっと解説
算法:算数のことです。自分で勝手に作ってしまいました。でも、普通に以前、誰かが言ったかと思います。

 

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