コンタ・ロスノフスキは傾きかけた太陽よりも、海に釘付けだった。
泳いでいる魚までは見えない青い海は彼の好奇心をかきたて、風も隠し味みたいに彼のそれを後押ししていた。船首部で6,7歳の子供たちは表面に出して喜び、遊んでいたが、コンタの場合は表面に出すことはできるもののただ感嘆で声に出すのは難しく、呼吸もままならなかった。
「ふぅ……いい風」
少し強い風だが、髪を直そうとはせず自由にさせていた。
『でも、よかったのかなぁ。休憩しちゃって』
「すみませんでした。」
ポーターは全員集まりヘッドポーターの前に集合しそれぞれの反省点を述べ、次回からどう接すれば言いかという改善点も述べた。しかし今日は彼ら以外に今日入ってきたばかりの仮雇いと船長がそこにいた。コンタは平謝りに徹した。
「いや、なれなれしい態度をとったことは確かにいけない」
とヘッドポーターのヘンリー・ゲイツは彼を戒めた。
「はい。わかっていました」
何をゆるしたのか、少し慰めるような顔をして、
「しかしな」
「はい」
「注意しながら、何だが……別にチップは取っておいていいんだぞ?」
「え?」
「多分お前は働いてまだ4時間と経っていないが、ここの給料はおそらく普通の働き場よりかなり少ない」
「そうなんですか?」
「ああ、だからだ」続けて「もらったチップはそのまま自分の給料にしていい決まりにしている」
「はぁ」
「つまりだ。そうやってよりよいサーヴィスを提供するようにしているんだ」
「わか、りました」
「まぁ、休憩を取らせようとしたが、決まりだ。始末書を……ん?」
突然コンタが不思議そうな顔をみせたので、
「どうかしたか?」
問いただした。
「あ、はい。もらったチップってそのまま自分のものにしていいって事ですか?」
「ああ」
「そのもらったチップはヘンリーさんが計算するんですよね?」
「いいや? ……なぜだ?」
「ええ、マキヤさんがもしチップをもらったりしたらそれを計算しなくてはならないといっていたので……オレに手渡すようにと」
ビクッ
一人が今まで全く関係なかった一人はコンタが怒られている最中に隣の人と話をしていた。しかし彼は自分お名前が出たと同時に突然驚き「オレがなにか?」という顔をしていた。
彼は今まで会話をしていた人に尋ねて内容を聞くと、内容を話した社員はヒュッと彼から遠ざかり、聞いた彼は見る見るうちに顔を青くしていった。船長が楽しむように笑っている一方ヘンリーは感情を押し込めるように静かになり
「マキヤが?」と質問した。
「……はい。あの……なにか?」
コンタは今までの空気の違いに気がつくも自分は別に悪いことを言っていってないので普通に答えた。
「いや、なんでもない。コンタ休憩してきていいぞ?」
「わかりました。始末書を書いたらすぐに」
「ああ、いい、いい。二枚も読みたくないんでな。今度から気をつければいいよ。休憩に言って来い」
「……はい」
コンタは疑問符を残してどうやら自分が最後だったらしく休憩する人は休憩をとった。
休憩に入る際に聞こえたのは男マキヤの甲高い声だった。
「こんなところで休めるか?」
後ろで声がしたので振り向くと、船長が立っていた。
「あ、はい。風が気持ちいいです」
「オレの質問に答えてないが、なんか飲むか?」
「ああ、いえ、別に……」
「はあ、聞いた俺が馬鹿だったよ」
とバゼイシャーはそれだけ言うと飲み物を両手に持って帰ってきた。
「アイスコーヒーとオレンジどっちがいい?」
「あ、じゃあオレン……」
「コーヒーな」
おもむろにコンタにコーヒーを差し出した。
「え……」
「苦いの嫌いなんだよ」
「はあ、ありがとうございます」
苦味に眉間にしわを寄せながらもコーヒーを飲んでいるコンタをみて、
「どうだ、仕事のほうは?」帽子を深くかぶり、バゼイシャーはたずねた。
「あ、はい。とても楽しいですよ。いろいろな人にも会えますから」
「そうか」
「はい。小さいころに乗ったことはあるらしいんですが、どうも覚えてなくて、でも今回なこの船に乗ったときの思い出を忘れないようにしたいと思います」にっこり笑いながらいった。
「そういえばコン、何で一人なんだ、どっかにいくのか?」
「え……ああ、別に目的地は無いですよ。旅をしているだけです。といってもまだ二日目ですけど」少し顔を赤くして「とりあえず、そのヴェルトリオールにいって。東のほうに行こうと思います」とつけくわえた。
するとバゼイシャーはコップについているストローから口を離して、少し驚いたように聞きなおした。
「旅か?」
「はい」
「あの、つまりだ。目的地を持たずふらふら行きたいとこに行くという、旅か?」
もう一度聞きなおした。
「ええ、さすがに村を出るときは少し怖かったですけど、今のところなんともありませんし、怖くも無い。どっちかというと、さっきも言いましたけど楽しいくらいです」
それを聞いて、バゼイシャーはコンタの笑顔をよそに、
「お前、一人で?」
本当に驚いたようにもう一度聞きなおした。
「ええ、ボク一人で」
今度はしゃべりだしたときの恥ずかしさは抜け素直に答えた。
「……」
彼は無口になった。帽子を深くかぶっているせいか表情も見えない。
「どうかしました?」
「……」
「バズさん?」
「……クックック」
「ん?」
「アッハッハッハッハ」
「え、え?」
突然彼は笑い出した。バゼイシャーは不思議がっているコンタの気持ちもかまわず大笑いしている。周りで遊んでいた子供と連れ添いの保護者も突然笑い出したかれを目をぱちくりさせてみていた。大気を振るわせるほどではなかったが十分大きな声でひとしきり笑った後、手すりを杖代わりつかんで倒れないように支え、まだおかしいらしく、それを抑えていた。
「クク。いやぁ、コンみたいなガキまで旅に出るようになったとはな」少しずつ笑いをなくして「しかもこの時代に」とまだ顔は愉快そうなまま言った。
「え? 時代って、どういうことですか?」
「俺は正直、あと百年はコンのようなヤツが旅に出るとは考えもし無かった」コンタの額に右人差し指を置いて「よわっちそうなヤツがな」とニヤニヤしていた。
「えと……そんなにボクは弱そうに見えますか?」
「……つよいのか?」
「……わかりません……」
一度ストローに口をつけた後に「この世界がどれだけの歴史を持っているかはわからんが、いつの時代でも海のように波がある。国一つ一つにな。今は以前に比べなだらかだが、落ち着いてはいない。自分の命云々はそいつ次第だが、国どうしの国交もあるにはある。が、いつ切れるかわからない。今もどこかで戦争をやってるかもしれない。もう少し時間が必要なんだ。それに……」
「それに?」
「それに、まだこの世には知らないことが多すぎる。地図だってまだ完璧じゃない。だから、旅するな。とは言わないがある程度、旅をするうえで知識と今日を生き抜く力がいる」
「はぁ。知識と力ですかぁ」
「そうだ」バゼイシャーはうなずき「コンの場合、長年いろんなヒトを見てきた俺から言わせれば、そういう空気がこれっぽっちも無い」
「空気……ですか?」
「ああ、好奇心旺盛なのはわかるが、雰囲気として強い気がしないんだ。旅にでる青年を多く見てきたが、荒削りだがいい雰囲気を出してたよ」
「え、えと……だめですか?」
「だめとはいわん。仲間ができればそれなりにやっていけるからな。だからコンの場合まず、どこかのパーティの仲間になることだな」
「……仲間……」
「ある程度、自信がつけばまた一人で旅してもいいしな」
「……」コンタが糸目をバゼイシャーに向けたまま、とまってしまった。
「ん? どうかしたか? 俺は無理だぞ、トシだからな」
ニコォ
「違います。そっかぁ、仲間ですかぁ。やっぱり旅をするって事はいろんなところに行くわけだから、いろんなヒトに会えるってことですよね?」
「あ、ああ」少したじたじながらもバゼイシャーはうなずいた。
コンタはにこにこして「仲間って事は友達。もしかしていろんな国、いろんな土地の人たちとも、友達になれるかもぉ」
「お、おい」
「いいなぁ」
「あ、あのな?」
「宝の地図とか見つけて、一緒に財宝を探したりぃ」
「おい」
「あ、確か王国があるのは父さんから聞いてるから、王様に会えないにしても、この目でみることができるかも」
「……」
「あとぉ……」
「オイ!!」バゼイシャーは耐え切れなかったのか、彼を
こっち
に戻そうとしていたのかわからなかったが、この状況を何とかするために、大声で叫んだ。
「は、はい!」
「どこで何しようと勝手だが、明日どうなるか分からないんだぞ? 旅っていうのは」
「……大丈夫ですよ。きっと」ふつふつ怒りが表情に出ているバゼイシャーと違ってコンタは笑顔で「今までどうにもならなかったことありませんから」と迷わずに答えた。
「……」
彼はそれを聞いて何故かその言葉に言い返すこともできず、落ち着いてしまった。言い返す気力もなくなってしまったのだろうか。
『……コイツ……バカなのか、それとも……』
「それ、どうにもならなかったときは死ぬってことだぞ?」
「そうですねぇ。でも、そのときはもう考えることもできなくなっているでしょうから、そんな死んだときのことなんて考えたくないんです」続けて少し、困ってみせ「恐怖には当然襲われると思います。だから、死なないようにがんばります。いえ、絶対死にません」
傾きかけた太陽が赤くなり始めすこしずつ夕焼けに変っていく、周りの子供たちはその静かに沈んでいく夕日を「もう沈んじゃうの?」と思わせるような顔をしていた。
「……お前、バカだろ?」バゼイシャーはその日を見て、ほんのちょっとやさしくコンタに問いかけた。
『……なるほどね。強いかどうかは別として、覚悟はしているようだな。ま、本当のところは分からんが、教育はうけているということか』
「とうさ、父にはよく言われました。」
後頭部をかいて、少し恥ずかしそうだ。
「……クック、そうか」そういうとくるりと向きを変えて「お前は死なんよ。しぶとそうだ。俺が保障する。そろそろ客が飯を食うころだろう。ベッドのシーツを取り替えてこい。ふぅ、ガキとしゃべると疲れる」
「あ、はい!」
コンタは立ち上がって元気にうなずき、バゼイシャーを走り抜き去って
……転んだ。
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こんにちは、Barovsです。
これから、もっと乗せるまでの時間が長くなるかもしれないですけれど、一応まだ生きてます。
そして、ここまで書いておいてなんですが、私が書く上でのコンセプトを少し言っておきたいと思います。
コンセプトは洋書を読んでいるような感じ。です。
おそらく、皆さんはすごく読みにくかったり「〜〜でした。」が多いのではないか?
と思っていると思います。
そのとおりです。そういう風に書いているのですから。
私は洋書をよく読みます。そういう意味でのファンタジーなら、ハリーポッターが思い出せるかと思います。実際読んでいますから。
ともあれ、そういう感じです。
ああ、今回の話の内容のほうですが、やはり船になりますかね。
そして、夕焼け。
夕焼けは沈むときが一番キレイかなと思っています。ずいぶん前ですが電車に乗っている最中に窓をのぞくとちょうど日が沈むところでした。最後までじっくり見ましたが。そのとき初めてゆっくりだけど地球は回ってるんだなぁと感じたときでした。これを見たら何も知識を持たない人が見れば、太陽が動いているように見えるのは当たり前だな。とも感じました。
ま、そんなかんじで・・・・
脈絡なし。
次回から視点がまた変ります。
んと、ヒロインの登場です。
本当は、ヒロインだけで一章を取りたかったのですが、あわせちゃうことにしました。
だから、この二章は一章以上に長くなります。
それでは。次ももし私が書くことをあきらめなければ、そこで会いましょう。
乱筆多謝。
作中チョコッと解説。
ヘッドポーター:これは多分聞かれなくても分かると思いますが、ポーターの中で一番偉い人。そんな感じで知ってもらえれば良いと思います。