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 いつの間にか、コンタの頭の上にあったお日様は、紅くなり西のほうに沈みかけている。午後もやるはずだった練習はリンカが「午後はゆっくりと休みなさい。」と、いつもの笑顔で言ったので、カシムが昼前に言ったことはなくなり、彼は特にやることもなく『ナナメ木の木』のてっぺんにすわりぼ〜〜っとしていた。そして夕焼けが彼の頬を照らしたとき、コンタは自分がどれだけそうしていたかに気づいた。テラスにある時計塔を見て
「もう、こんなに時間がたってたんだ。」
 獣人族は平均的には目がいい、それは主に住んでいる環境で決まる。それはとても簡単で普段から遠くを見ていれば目はよくなるし、近いものしか見なければ悪くなる。種族によって、視力を自由に変えれることもできたりする。コンタの場合、目がいいのは家系である。特にカシムの家系はただよく見えるだけではなく動体視力もいい。
 そんなわけでコンタはここから遠く離れた時計塔でも見えるわけなのだ。そして、唐突だが彼らの種族を簡単に説明したい。
 

 ロスノフスキ家の家系。
 彼らの種族は狐である。
 リンカは東の生まれで黒い瞳がその土地の特徴だ。術は使えない。それと違い、術が使えるカシムは瞳が紅く、何よりしっぽが状況により増やせるのが特徴である。リンカとカシム、二人は純血ではないものの、それぞれの親から受け継いだものはそれに近いものがあったらしく彼らの先祖の特徴を色濃く受け継いでいる。それが息子、娘であるコンタとコンコも彼ら夫婦の特徴を強く持っている。まあ、簡単に言うとこんな感じ。というわけで説明終わり。

 コンタはあんな言葉を吐いておきながら、おそらくそれは口から出ただけで自覚はしていないのではないか。また街のほうを見ながらまたぼ〜〜〜っとしていた。
 コンタがこんなふうに魂が抜けていた折、下から彼の父親がトンットンッと軽快に登ってきた。
「ここにいたのか」登るときについた葉を払いながら、自分の息子に声をかける。
「そろそろメシだ。帰るぞ。うおっ、久しぶり登ったが、結構高いなここ」
 ひゅ〜〜っと口笛を鳴らすように口をすぼめる。
 コンタはカシムが登ってきて言葉を投げかけられたのに気づいている様子はなかった。
 コンタの頭に手をのせ、クシャっと髪をいじると、やっと彼は気づいたようだった。
「あ………父さん」
「もうメシだ」カシムはテラスを眺めながら、言葉をはくと、
「は〜い」と、コンタはうなずき、そしてまた彼も街を眺め始めた。
 コンコの先程までの時は何時間というものをわずかな時間にしてしまうものだったが、今は、短い時を何時間にしてしまう効果が起きた。それはテラスの人々、もちろん彼らの家族であるリンカやコンコにもそういう風に感じることはなく、今ここにいる二人だけがこれを感じることはできた。そう感じている間にも山の向こうからだろうか、風は吹き、木々はゆれ、葉をこすらせることで音を奏で森はざわめく。コンタとカシム、その二人がその風を受け、通り過ぎたとき、口を開いたのは、
「リンはオレより、ハナがきくからなぁ」カシムだった。彼が自分のことを"オレ"と、するときは大抵、コンタを自分の息子としてみないときだろう。
「………やっぱり、ずっと前から僕が迷っていることに気づいてたのかなぁ」コンタは顔を彼のほうに向ける。
「たぶんな、オレやコンコより前から、リンはそういう、表情から心を読み取るのがうまいからな」顔を街に向けたまま答える。
「今考えると、一年前は、相当嫌がってたもんね」
「そうだな」コンタの自答に、同意を示すと今度は顔を彼に向け、
「だが、今日、お前は行くことを決心した」視線を合わせる。するとコンタはそれから別に逃げるわけではないが、また街のほうに目を移し、今日自分が心に決めたことを噛み砕くかのようにうなずく。
「それもリンにはお見通しだった」
「うん」
 また、会話が途切れる。しかし今度は不思議な時間は流れず、沈黙を破ったのは
 ハァ〜〜〜〜と、今まで自分の身体の中にあった幸せを全部逃がしてしまうくらいのため息だった。
 よいしょ! っと、コンタは腕に勢いをつけて立ち、
「しょうがないか」と、すっきりした顔で誰に聞いてほしいわけでもなく答える。
「ん?」
「考えたってしょうがない。悩んでたってしょうがないかぁ」
 ん〜〜〜〜っと背伸びをしてカシムに背をむけ、木の根元のほうへ歩き出す。
「もう……決めちゃったもんね」とリンカよりずっと細い目をカシムにむけ、だがはっきりとリンカの血を引いているカシムの息子の顔は、ニッコリと微笑んでいた。そこにはさっきまであったコンタの表情はない。言葉だけではなく本当にそう思っていたのだった。
 そのときカシムは今日はじめて、自分の息子への概念が一年前とは似て非なるものであることに気づく。
――……コイツ、一年前とは内容がまったく異なっている。
 ここで云われる"内容"とは『[事柄や現象などを]成り立たせている実質、意味』という受け取り方ではなく、" (うち) なる (すがた) "つまり、コンタの心の中にある (うつわ) 、それがまったく異なっているということである。  
 しばらくその 現代(いま) の姿である彼、コンタを眺めていた。
「どうしたの?」
 今度は時を止めていたのはカシムだけだったのだろう。コンタは彼の止まった時間を進めた。
「あ、ああ、いや……なんでもない」
「そう。………ボクもうお腹すいちゃった、帰ろう?」お腹をさすって、細い眉をハの字にしていた。
「そうだな、帰るか」
 コンタのさっきまでと打って変わった表情を見て、カシムは自然と顔を緩ませた。


「実はね……父さん」
「ん? なんだ?」
 帰り道まだ夕日が沈むまで十分歩いて帰るだけの時間があったらしく、二人でのんびり歩いて帰宅中だ。
「本当はね……結局、ここに残るか出て行くかを決めるときどっちをとるかわかってた気がするんだ」
「そうなのか」別段驚くしぐさは窺えず、カシムは息子と歩調をあわせ歩いている。
「うん……それも一年も前から」
「父さんが今日の話をしたときからか?」それは驚いたぞ。という表情を見せ息子に顔を向ける。
「……うん」
 コンタは正面を向いたままだ。
 カシムは顔を正面に戻し、疑問符を浮かべ、
「そんな風には見えなかったなぁ………リンもさすがにそんなときには気づいてなかったと思うぞ?」その疑問符を息子コンタに投げかけた。
 コンタな苦笑いで「あのときじゃ、ちょっと自分でも想像できないからね」自分の一年前の状態は、今日、妹に言われたのも思い出して、自覚はしているらしい。
「そのときはほんのちょっぴりしか思ってなかった。でも……」
 彼は一年前のことを昨日のことのように思い出しながら、言葉を紡ぐ。
「でも?」
 このときカシムは今日で何度目になるだろう、自分の息子の変化に驚くのは。もしかしたら今日だから、自分の息子であるコンタが今日、旅立ってしまうから、こんなにも彼の表情に表れているのではないか。あるいは、一年前とさほど変わっていないだろうと思っていたがゆえにカシムは自分の息子の大きな変化に気がつかなかったのではないか。どちらにせよ、今日はじめて知ったのだ。いや、改めて自覚しだのだ。コンタがこんなにも一年で成長していたことに。
 コンタは牙をちらりとのぞかせ、今度はまるで若かりし頃のカシムがそこにいるように彼は笑って見せた。
「だって、ボク、父さんの息子だから」




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